高園いろ巴という女

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「セレンって誰かと付き合ったことはあるの?」 「ないよ」 「ないんだ。何で付き合わないの?」 「面倒くさい。自分のペースを乱されたくないし」 「うわ、スケコマシだ」 「スケコマシ」  セレンはふっと顔を綻ばせた。 「わたしは高校生の時に付き合ったことがあるよ。だから、わたしの勝ちだね」 「何の勝負だよ」 「しかも半年くらい続いたんだから。ちょこちょこ遊びに行ったりして。付き合ってる彼氏とデートって楽しいんだよ」 「ふぅん」  セレンは素っ気ない返事をしたきり黙ってしまった。  ドヤ顔を盛大に決めたつもりが、それに対して何の反応も返ってこない。  車内に流れる静かなBGM。  窓の外を流れる景色が急激に輝きを失う。  表情のほとんどなくなった横顔を、わたしは様子を伺うようにじっと見つめた。 「ごめんね、興味なかった?」 「別に。興味ないわけじゃないよ」 「そう……ならいいけど。あの、セレンって今好きな人はいないの? 気になってる人とか」 「いるよ」 「いるの!?」  自分から聞いておきながら驚いた。  まさかセレンに好きな人がいたなんて。  わたしが助手席から身を乗り出すと、セレンに穏やかな表情が戻ってくる。 「そんなに意外?」 「意外だよ。そんな気配、全然感じなかったし。セレンっていつも遊んでるイメージだったから」 「そう見える? いるよ。大切にしたいと思うやつくらい」 「へぇ……そうなんだ。その人とは付き合いたいと思わないの?」 「思うよ」  前に見かけた女の人達の顔が、サーッと流れるように思い浮かぶ。  あの中にセレンの好きな人がいるのかもしれない―――そう思うと、胸がじめじめとして嫌な気分になった。  それがどうしてなのかは分からないけど、セレンが遠くに行ってしまった気がしてとにかく嫌だった。  わたしはすぐに窓の外に目をやって、通り過ぎていく真っ白な外灯を一つ、二つと数えた。  そうしたら、このわけのわからない気持ちが少しずつ消えて、胸の中がすっきりしそうだと思ったからだ。 ―――変なの。  同居生活が始まってから、調子が狂って仕方がない。  早く元のわたしに戻らないと、もっとおかしくなってしまいそうだ。  焦りを覚え始めたわたしの目の前を、また一つ外灯が通り過ぎていった。     
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