ふたりは友達

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ふたりは友達

 目を細めると、たくさんの丸い光が重なって視界がぼんやりと滲んだ。  眉間に皺を寄せて、一歩だけ前に進んでみたけど何も変わらない。  はあ、と力なく吐息を漏らす。   「電気も付けないで何やってんだよ」  落ち着きのある低い声が室内に響いた。  リビングがパッと明るくなり、黒い窓ガラスにわたしの顔がくっきりと映る。  その表情があんまりにも酷かったから、わたしは思わず「うわ」と小さな声を上げた。   「おかえり、セレン。今日は遅かったんだね」 「ただいま。リハがちょっと長引いたから遅くなった。外に何かあんの?」  ベースを背負ったセレンが隣に並び、窓の外を怪しむようにじろじろと眺める。  わたしは隣を見上げて首を横に振った。 「何もないよ、夜景を見てただけ。来週、演奏のバイトをしてるレストランの貸切パーティーがあってさ。その日までに夜景に似合う曲を作って欲しいってリクエストされちゃって。それで考えてたの」 「何かいいの思いついた?」  セレンは窓から離れると、ベースを下ろしてダイニングテーブルに立てかけた。 「ぜーんぜん。よく考えたらわたし、夜景自体を見に行ったことがないんだよね。ここから見える景色も綺麗なんだけど、やっぱり空気感とかそういうのは窓越しだと感じられなくてさ」 「今から見に行く?」 「え、連れてってくれるの?」  わたしがダイニングテーブルのそばまで駆け寄ると、セレンはどこか嬉しそうに頷いた。 「いいよ。行こう」 「でも仕事から帰ってきたばかりで疲れてない?」 「このまま夜景を見に行った方が疲れが取れそう」 「ほんと? そっか、セレンって夜景が好きなんだ。ありがとう。嬉しいよ!」 「別に夜景は好きでも嫌いでもないけどな」 「?」 「意味が分かんないならいいよ、考えなくて」  セレンはオーバーサイズのジーンズに両手を突っ込み、くるりと背を向けて玄関まで歩き出した。  その後ろ姿から、いつも通りの緩い空気感が漂っているようにも感じるし、そうじゃないようにも感じる。  セレンが何を言いたかったのかはよく分からなかったけど、とりあえずは分からなくても良さそうだ。  わたしは軽い足取りでセレンの後ろに付いて行った。        
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