ふたりは友達

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 真っ暗な道路を抜けた所で車が停まる。  山道と夜空が混ざりあった暗闇の向こうに広がる景色がどんなものか、期待を膨らませながら慌ただしく車の外に出た。 「いろ巴、上着は?」 「いらない。暑いから」  パーカーのまま、すぐ近くの展望台まで足早に歩いていく。  ひとけのない広場の地面の先から、夜空に滲んだ光が少しずつ見えてきて心が踊った。 「うわぁ、すっごい綺麗!」  そのまま飛び込む勢いで、展望台の錆びた柵に両腕をひっかける。  山の麓から地平線に向かって一面に敷き詰められた光の粒が、夜にだけ浮かぶ海を思わせる眺めに深い溜め息をこぼした。  なんて綺麗なんだろう。  一つずつ光を触ってみたくて手を伸ばす。  でもそこにあったのはひんやりとした空気だけで、当然だけど何も掴めなかった。  冷たい風に乗った、夜露に濡れた緑の匂い。  遠くではリリリと虫が鳴いている。  セレンは後ろから遅れて歩いてくると、少し間を空けて隣に立ち、柵に両肘をついて輝く夜の海を静かに見下ろした。 「ねぇ、ちゃんと見てる? 凄く綺麗だよ、ほんとに!」 「見てるよ」  セレンがふふ、と優しく笑う。   「夜景がこんなに綺麗だなんて知らなかった。ありがとう」 「喜んでくれて良かった」 「セレンの家の近くにこんな場所があったんだね。ここからの眺めが特別に綺麗なのかな?」 「そうかも。穴場だから人もいないし」 「人がいないのはいいよね。この景色を独り占めしてる気分。こういうのは初めてだよ、感動した」 「初めて?」 「そうだよ。展望台から夜景を見たのも初めてだし、誰かに連れて来て貰ったのも初めてだもん。だから嬉しいの」 「そっか」  暗くてセレンの表情がよく分からないけど、声の調子からしていつも通りなのは何となく伝わってきた。  何度もここでこの景色を見ているから、セレンにとっては特別なものじゃないのかもしれない。  きっと今までに色んな女の人と見に来たんだと思う。  セレンなら夜景の他にも気の利いた場所をたくさん知っていそうだし、お洒落な空間には慣れているんだろう。   「あ」 「どした?」 「ううん、ごめん。何でもない」  まただ。  同居生活が始まってからもうすぐ一週間が経つのに、まだどこか落ち着かない。  落ち着くどころか、日に日におかしな感覚が増しているような気がする。
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