ふたりは友達

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   今までセレンがどれだけ女の人と遊んでいようが、まったく気にしたことなんかなかったのに。  ちらりとセレンを覗き見る。 「何?」  すぐにわたしの視線に気付いたセレンが振り向く。  気まずくなったわたしは、また夜景に目をやった。 「あ、えっと……こういう場所ってよく来るの?」 「そんなに来ないよ」 「来ることは来るんだ?」 「んー、そうかな」 ―――誰と?  言いかけた言葉を深く飲み込む。  セレンが誰と夜景を見たことがあるのか、聞きたいのになぜか聞きたくなかった。  錆びた柵に両腕をひっかけたまま、ぐっと力を込める。   「一緒に住むようになってから、セレンのこと何も知らないなって気付いたんだよね。知ってるつもりでいたけど、何にも知らなかった」 「……それで?」 「でも聞くのが恐い時もあるんだ。聞いたら、セレンが遠くに行っちゃいそうな気がして」 「それってどういう意味?」 「え?」  セレンの真面目な口調にひかれて顔を上げると、今度はお互いの視線がぴったりと重なった。  こちらをじっと見つめるセレンから目が逸らせない。  わたしの視線を真っすぐに受け取ったセレンも、同じことを感じているような気がした。 「そのままの意味だよ。セレンはいつもそばにいてくれるから、遠くに行ったら寂しくなるんだよね。わたし、いつからこんなに弱くなったんだろう」 「おれはいろ巴が弱いって一度も思ったことないよ」 「ほんと? わたし、誰かにこんなことを思ったのは初めてかもしれない。それくらいセレンの存在が、わたしの中で大きくなってたんだな」  セレンは伏し目がちに小さな溜め息をつき、夜景に背を向けて物憂そうに柵にもたれかかった。  整った横顔が暗闇に溶け込んで、どんな表情をしているのかはっきりと見えない。  伝えた内容がまずかったんだろうか。  急に不安になったわたしは一歩だけ足を踏み出し、セレンの顔を控えめに覗き込んだ。 「何だよ」 「いや、ごめん。迷惑だった?」 「迷惑じゃないよ」 「でも嫌そうじゃん」 「嫌じゃない。さっきの、本気で言ってんのかなって思って」 「本気だよ。セレンと出会って初めてそう思ったんだもん」 「ずるいな、いろ巴は」 「何がずるいの? はっきり言ってくれなきゃ分かんない」 「はっきり言って欲しい?」
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