ふたりは友達

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   しんとした、だだっ広い夜のリビング。  壁際にあるやたらと大きな液晶テレビの電源を付けると、見覚えのある綺麗な女の人の顔がクローズアップして映し出された。  新作のアイシャドウのCMだ。  ピンクゴールドに染まった形のいい瞼が開き、こぼれ落ちそうな大きな薄茶色の瞳がきらりと光る。  思わずドキッとして、指で摘んだばかりのポテトチップスを床に落としそうになった。    忘れもしない、アパートの前で死ぬほど追いかけてきた超絶美人なあの人だ。  同居生活が始まった原因の人物でもある。  芸能人だとは聞いていたけど、こうしてテレビで観ると本当にそうだったんだと実感した。  やっぱり一般人とは全然違う。  目鼻立ちが寸分の狂いもなく整っているし、顔も小さくて、芸能人らしい華やかなオーラをまとっている。    何だか憂鬱な気分だ。  目の前にあるよく磨かれたマホガニーのローテーブルの上には、ポテトチップスとチープなスモークチーズ、ちくわときゅうりに惣菜コーナーのやきとりと缶ビール。  このテーブルも、まさかこんな安っぽい食べ物が並べられる日が来るなんて夢にも思っていなかっただろう。  猫脚ソファに、ころんと横になる。  セレンの家で暮らし始めて二週間近く経つけど、きっとハイクラスな生活に慣れることはこれからもないと思う。  豪華な家具が揃えられた広い部屋にいるよりも、しみったれた硬い畳の上でごろ寝した方がずっと落ち着く。  それなのに、ここにもう少し居座りたいと心のどこかで思い始めていて自分でも驚きだ。  わたしは相当、厚かましい性格らしい。    テレビから流れ始めたキャッチーなメロディに、ふと耳を傾ける。  世界的な人気を得ている若手の黒人シンガーソングライターが、毎週放送されている有名な音楽番組でライブ演奏を披露していた。  リビングに重く響く、リムショットのきいたお洒落なR&B調のサウンド。  少し掠れた、みずみずしい歌声にうっとりと聴き入る。  これだけ自由に伸び伸びと歌えるのは、彼の後ろにいるミュージシャン達が完璧に演奏しているからだ。  バックバンドに目を向けると、逞しい身体つきの黒人ミュージシャン達の中に、一人だけ日本人がいることに気が付いた。 「あれ、セレンだ」
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