ふたりは友達

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「もう朝ぁ?」 「ううん、まだ夜の10時前」 「ふぁ、早いねぇ。スーツのままだしぃ、何か急いでたのぉ?」 「いろ巴、まだ起きてるかなって思ってすぐに帰って来た」 「え〜何てぇ?」 「何でさっきから肝心なとこが聞こえねぇんだよ。こんなに酔っ払ってるいろ巴、初めて見た」 「何で笑ってんのよぅ、またばかにしてぇ」 「ばかにしてるつもりはないよ。面白いだけ」 「面白くないもぉん」 「ほら、立てる?」  自分でも子どもみたいだと思いながら拗ねるわたしの目の前に、セレンがすらりとした手を差し出す。  どうやらこのまま部屋に帰されてしまうらしい。  せっかく久しぶりに会えたのにもう寝ないといけないなんて嫌だ。  わたしは何度も頭を横に振った。 「やだぁ、まだ飲むもん」 「今日はもうおしまい」  ソファの下にだらりとぶら下がった腕を、セレンに優しく持ち上げられて手首をぎゅっと掴まれる。  温かくて大きな手だ。  そういえば、こうしてたまにセレンに触れられることはあったけど、わたしから触れたことはあまりなかったなと思い返す。 「セレン」 「ん、何?」  名前を呼ぶと、穏やかな返事が返ってくる。  この落ち着きのある柔らかい声が好きだ。  わたしの手首を握ったセレンの手に、自分の手を少しだけ重ねてみる。  温かい―――そう思ったのも束の間、すぐにセレンの手が離れていき、わたしの手の中は空っぽになった。  やっぱりそうだ。  いつもセレンはわたしから逃げて行って、ちゃんと捕まえられない。  何を考えているのか分からないし、聞いても上手く返事をはぐらかされたりして。  6年近くもそばにいるのに、いまだにセレンのことを何も知らない。  知りたいのに、知らない。  知りたくないのに、もっと知りたい。    「何でいつもわたしから逃げるの……?」 「逃げるって?」 「こうやってさぁ、わたしに触られるのも嫌がるじゃん。わたし、寂しかったよ。会えなくて寂しかったんだよぉ」  そうだ。  言葉にしてみて、初めて自覚する。  この5日間、セレンに会えなくて寂しかった。 「だからぁ会えたの、嬉しかったのに。まだ部屋に帰りたくないよぉ、セレンと一緒にいたいの」  セレンは一つ溜め息をつくと、ソファの背から離れて、ローテーブルとわたしが横になっているソファの間で立ち止まった。
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