ふたりは友達

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 目を覚ますと、頭の芯がズキズキと痛んだ。  足元の淡いブルーのジャガードカーテンの隙間からは、穏やかな陽の光が漏れている。  目の前には、しみ一つない真っ白なふかふかの羽毛布団。  ここはわたしの部屋だ。  昨日の夜はソファで横になっていたはずなのに。  痛みを堪えながら糸をたぐるように掘り起こした記憶は、ソファに深く身を預けたセレンの姿を最後にプツリと途切れている。  やっぱり自分の足で部屋には戻っていない。  ということは、セレンがベッドまで運んでくれたということだ。   「最悪だ……」  わたしは布団の中に潜って、背中を丸めた。  昨日はたくさんビールを飲んで酔っ払ってしまったとはいえ、明らかにどうかしていた。    仕事から疲れて帰って来たセレンは、同居人が自分の家で飲み散らかしているのを見てどんなに残念な気持ちになっただろう。  それなのにわたしときたら―――。   『わたし、寂しかったよ。会えなくて寂しかったんだよぅ』 『セレンと一緒にいたいの』 「い、いやぁ、何言ってんのわたしぃい」  右に左に身体を揺らす。  同時にベッドのスプリングが小さく揺れ、頭をちくちくと刺激した。    セレンは明らかに迷惑そうにしていた。  ただの友達にいきなり寂しい、一緒にいたいなんて言われたら当然だ。  介抱してくれようとしたセレンの優しさにつけ込んで、困らせて、男女の仲にはなりたくないとまで言わせてしまった。  あれ以上わたしが暴走していたら、今頃友達ですらいられなかったかもしれない。  思い返せば、無表情にこちらを見下ろすセレンはまだ何か言いたげな様子だった。 「ばかだなあ」  針に刺されたように頭が痛む。  わたし達は友達同士だから、男女の仲に踏み込むことを拒否されるのは当たり前なのに、悲しいのはどうしてなんだろう。  こんなわたしみたいな冴えないチビが、高スペックの塊みたいなセレンに相手にされないことくらいずっと前から分かっていたのに。  今までセレンが遊んで来た女の人達が、どうしようもなく羨ましい。  一夜だけでもセレンに受け入れて貰えたんだから。  そう思ってしまうのは、お酒がまだ身体に残っているからだろうか。  願わくばそうであって欲しい。  むしろ、そうであってくれ。  スマホの冷たいアラーム音が鳴る。  今日はオフなのに、アラームを切るのを忘れていたらしい。  枕元にあるスマホまで手を伸ばすと、ホーム画面には大きく『7:00』の文字が浮かんでいた。  この時間だったらまだセレンは起きていないかもしれない。  朝の散歩にでも出かけてしまえば、顔を合わさずにすむかもしれない。  謝らないといけないことはたくさんあるけど、今日は誰にも会わずに一人でいたい。  重い身体を引きずってベッドから這い出る。  背の高いドアの前で大きな溜め息を押し込み、重厚な金色のレバーハンドルを押し下げた。
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