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そんなセレンをどこで知ったのか、神のごとく祭り上げて夢中になる女の人が星の数ほどいる。
わたしからすれば、こんな自分勝手な神様はたまったものじゃない。
「思い返せば、今まで知らない女の人達に散々言われてきた気がする。嫌味だったり文句だったり。わたし、そのうち刺されたりしないかな」
「ありそう」
セレンはタバコの灰をとんとんと落としながら、はは、と軽く笑った。
「笑いごとじゃないよ! こっちはめちゃくちゃ怖かったのに」
「じゃあさ」
セレンがその後言った言葉は、アルトサックスのソロでまったく聞こえなかった。
どうやらセッションライブが始まったらしい。
歯切れのいいホーンセクションと滑らかなエレクトリックピアノが、ワッと店内を盛り上げ客席の温度が一気に上がる。
流行りの洋楽だ。
「え、なんて言ったの?」
耳を近付けると、セレンはわたしの腕を掴んで身体ごと引き寄せた。
「一緒に住む?」
「は? どういうこと?」
驚くわたしを、セレンはなぜか満足そうに眺めている。
からかわれているみたいでむかっとする―――けれどすぐ目の前にある、長い睫毛に髪の色と同じ漆黒の瞳、少しだけ口角が上がった禁欲的に閉じられた唇。
どれもいつもなら絶対にありえない距離にあって、背中に変な緊張が走った。
「言葉のまま。おれの家に来て」
「本気?」
「本気。だってこのまま家に帰せるわけねぇじゃん」
「その前に、わたしのことが心配なら女の子との接し方をちょっと気をつけよう……とか思わないの?」
セレンを取り巻く人達の間でお互いに攻撃し合うのは構わないけど、まったく関係のないわたしまで巻き込まれるのは甚だ迷惑な話だ。
これからこんなことが何度もあったら、たまったものじゃない。
それに、わたしよりも恨みを買いまくっているセレンこそいつか刺されてしまいそうだ。
整い過ぎた容貌を目の前に、そわそわしながら返事を待っていると、セレンは両眉を上げて「ん?」と首を傾げた。
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