ふたりは友達

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 顔を洗ってリビングのドアを開ける。  スッと目が覚めるような清々しい空気に、いつも用意してくれている朝ごはんの匂い。  今日は、ほんのりとお出汁の香りがする。  これはだし巻き卵だろうか。    大きな掃き出し窓からは、透き通った陽の光が室内を隅々まで照らしている。  そこには、いかにも爽やかな朝といった光景が広がっていた。  休日の朝なんて、最高にウキウキした気分になるはずだ。  でも今は窓から差す眩しい光に、自分でも気が付いていない心の奥底まで照らされているような気がして、リビングからできるだけ早く立ち去りたい。  とりあえず、朝ごはんは後にしてお水だけ貰おうと、ダイニングテーブルに足を向けたその時だった。 「おはよ」 「うわぁ」  わたしが間抜けなひしゃげた声を上げると、猫脚ソファのアームレストからセレンがうつ伏せながら顔を覗かせた。  どうやらソファで横になっていたらしい。  微笑みを浮かべたまま顔を傾けたセレンが、甘えん坊の猫みたいで何だか無償に可愛らしく見える。 「いや、可愛らしいはないわ」 「は?」 「何でもない」  目をごしごしと擦る。  酔っ払って、頭だけじゃなくて目までバカになったんだろうか。  もう一度、顔を上げてセレンを見るとちょうどソファから立ち上がったところだった。 「あれ、ちょっと待って。今日、起きるの早くない!?」 「自然に目が覚めた」 「いつも昼過ぎまで寝てるって言ってたじゃん。今週もずっとそうだったし」 「今週はレコーディングがあったからな。久しぶりに夜にちゃんと寝たらすっきりした。てか昨日、おれが言ったこと覚えてない?」  キュッと身体が強ばり、咄嗟に俯いた。  セレンが言った言葉は嫌というほどしっかり覚えている。  最初から最後まで、わたしがやらかした出来事も含めて全部だ。  だから今日は、できるだけセレンと会いたくなかったわけで。  ガタン、とイスを引く音がしてわたしは再び顔を上げた。 「とりあえず朝ご飯食べよ」  セレンが向かい側の席に目配せをする。  既にわたしの定位置になったその席には、美味しそうな和食が美しい木目の折敷の上に並べられていた。  せっかくだけど、今から朝の散歩に行く予定だ。  今日はセレンと一緒にご飯を食べる気分じゃない。
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