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でも悲しいかな、そんなわたしの気持ちを遮るように、お腹がぐぅと大きなを立てた。
「腹減ってんだろ」
セレンが、何かを堪えながら口角に笑みを浮かべている。
「わ、笑いたかったら笑えばいいじゃん! 変に我慢されてる方が恥ずかしいよ」
「そう? じゃあ遠慮なく」
セレンは人懐っこい笑顔を向けると、イスの背もたれにどかっと身体を預けるように座った。
見慣れているはずのセレンの笑った顔に、ドキンと鼓動が跳ねる。
だめだ、だめだ。
さっきから、なぜかセレンが可愛くて見えてしまう。
「昨日あんなことがあったから、いつもと違うのかもしれない……」
ぼうっと考えながら席についていたせいか、本音がつるりと口から飛び出る。
気付いた時にはもう遅かった。
セレンは少しだけ目を見開いたあと、静かな眼差しをそっとわたしに向けた。
「昨日はごめん」
「何でセレンが謝るの? 悪いのはわたしだよ」
「ちょっと向きになってたから、おれ」
「向きに……? ごめん。よく分かんないんだけど、わたしが悪いのは間違いないよ。あんなに酔っ払って、部屋を散らかしたりはもうしないから」
「いや、それは別に……」
「それからわたしも、セレンとはちゃんとした友達でいたいって思ってるよ。昨日言われことはその通りだと思う。でもわざとじゃなかったの」
「わざとだったら怒ってるよ」
「ごめんね。同じことは繰り返さないように気を付けるから」
―――そんなに嫌だった?
ふと生まれた疑問を口にするのが怖くて、唾液と一緒に飲み込むと小さく喉が鳴る。
セレンは、わたしをじっと見つめたまま頬杖をついた。
「おれ、友達でいたいなんて言ってないよ。今はそれでもいいけど」
「え……?」
「意味も分かんなくていい」
「でもわたし、セレンのことは大切に思ってて……」
「知ってる」
「ほんとに? わたしの気持ち、ちゃんと伝わってる?」
「伝わってるよ」
「そんなにあっさり言わないで。わたし、本当にセレンが大切なんだよ。なのにあんなことしちゃって……セレンには嫌われたくないって思ってるのに。だめだった」
瞳がじんわりと熱くなって、視界がゆらゆらと揺れる。
どうして突然、泣きたくなったのか自分でも分からない。
こんなおかしな感情をセレンにぶつけたくはないのに、一端思いを口にすると止められなかった。
ズズッと鼻を吸う。
涙を堪えるのに精一杯なわたしを見るに見兼ねたのか、セレンはテーブルの端に置いてあったティッシュを箱ごと差し出した。
「嫌ってなんかないよ。だからおれのこと、それ以上煽んないで」
その言葉の意味もわたしにはよく分からなかったけど、セレンの話はちゃんと聞いているよ、という意味を込めて深く頷いてからティッシュを受け取った。
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