ふたりは友達

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   それに気付いたわたしは、セレンとだし巻き卵を交互に見やった。 「いいよ、あげる」  わたしが返事をする前に、セレンはお箸でだし巻き卵を半分に割った。  欲しくて見ていたつもりじゃなかっただけに、このまま貰っていいのかと考える。  でもお出汁のきいた柔らかなだし巻き卵を目の前にして、迷いは一瞬で消え去った。 「ありがとう!」  口を開けて待っていると、セレンがくすくすと笑い出す。 「いや、ここから届かねぇし。お皿ちょうだい」 「うわごめん」  恥ずかしさのあまり肩をぐっと丸める。  子どもじゃあるまいし、まさか口の中に食べ物を直接放り込んでもらうわけがない。  それに普通のテーブルよりも幅が広くて、お互いの距離が遠いから物理的にも「あーん」は不可能だ。  わたしは勢いよく、自分のだし巻き卵のお皿に手を伸ばした。 「そんなに食べさせて欲しいなら食べさせてあげよっか」 「は? 何言ってんの」  セレンの顔を見なくても分かる。  きっと今、もの凄く悪戯な表情をしているに違いない。 「い、ら、な、い! 自分で食べるから!」 「意地張んなくていいよ。隣に来る? おいで」 「いらないって言ってんじゃん! ちょっと勘違いしただけだもん」 「じゃあほら、顔上げて」  優しい声に引かれて思わず顔を上げると、セレンはイスから立ち上がりテーブルに手を付いた。  想像通りの意地悪で―――蠱惑するような笑みを浮かべながら、一口大のだし巻き卵をわたしの口元に運ぶ。  わたしは自然に口を開いた。 「美味しい?」 「………美味しい」 「顔、真っ赤。タコみたい」  セレンはけらけらと子どもみたいに笑いながら、イスにどかりと腰を下ろした。  その余裕のある態度に、むかっと腹が立つ。 「か、からかわないでって言ったのに!」 「ちゃんと飲み込んでから喋ろうな」  子どもを嗜めるような口調にキレそうになりながら、ふんわりとしただし巻き卵をあまり噛まずにごくりと飲み込む。  セレンに一言言い返してやろうと思ったその時、スウェットパンツのポケットに入れていたスマホのバイブがぶるぶると震えた。
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