ふたりは友達

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「それはいつもじゃない? セレンはどこにいても目立つんだよ。演奏してる人達も見られてると変に緊張するだろうし」 「来んなって言いたいの?」 「まあ、ライブハウスの秩序を守るために……」 「じゃあ、いろ巴が行かないで。あいつのとこに」 「へっ」  はじかれたように小さくのけぞる。  わたしの裏返った間抜けな声が室内に響いた。 「聞こえなかった?」 「き、聞こえたよ。聞こえた聞こえた!」 「そっか。それなら、もう一回言おうかな」 「いや、むしろわたしの声は聞こえてる!?」 「聞こえてるよ。うるさいくらい」  セレンが楽しそうにくすくすと笑い声を漏らす。  それがたまらなく恥ずかしくて、瞬く間にカーッと顔が火照り出した。  きっと今頃、頬が真っ赤になっているだろう。  すぐにでも両手で覆ってしまいたいけど、そんなことをしたらまたセレンにからかわれる。  恥ずかしい。  セレンが、付き合っている彼女に言うような言葉をわたしに向けてくるからだ。  大ヶ谷さんに嫉妬しているんじゃないかと思わず勘違いしそうになる。  それだけは絶対に違うはずなのに。  分かってはいるけど、こんな感覚は初めてだからどうしたらいいのか分からない。  戸惑いながらセレンを見やると、セレンは一瞬だけ目を見開いてからわたしを見つめ返した。 「おれ、本気で言ってるよ。いろ巴があいつのとこに行くのはやだ」 「ほ、ほ、本気なの? またからかってない?」 「からかってないよ」 「わたしが行かなかったら……セレンは嬉しいの?」 「おれが嬉しかったら、いろ巴は嬉しいの?」 「ずるい、答えになってない!」  せっかく収まりかけていた鼓動が、またバクバクと暴れだす。  これまでのわたしが少しずつ壊れていくような気がした。  きっとこんな気持ちになるのは、セレンの声がいつもよりも甘くて優しいからだ。  二人の間に流れている空気も、お互いの距離感も全然違う。  それに不思議なのは、こんなに恥ずかしいのに、二人の時間がずっと続いて欲しいと心のどこかで願っていることだ。  この気持ちって何なんだろう。  この気持ちに名前を付けるとしたら、何なんだろう。  ぐるぐると思考を巡らせながら、大ヶ谷さんのラインに目を向ける。  もう一度、読み直したところでふと疑問が浮かんだ。 「あれ? 大ヶ谷さんが言ってる面白いニュースって何だろう」  わたしは何の躊躇いもなく、ネットニュースを開いた。  
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