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「ちょっと待って、セレンって結婚するの?」
「は」
セレンの形のいい眉がアーチを描く。
驚くセレンを前に、わたしは早口で記事を読み上げた。
「人気タレントのが桝田彩世お忍びデート。近日中に結婚するという情報をキャッチした。お相手は、有名アーティストのレコーディングやライブツアーなどに多数参加している人気のイケメンベーシストだ……だって」
記事の冒頭部分には、隠し撮りと思われる暗くて荒い画像の写真が掲載されている。
どこかのビルの入口のような場所で、向かい合う男女が話をしているところのようだ。
男性のほうはすらりとしていて、お洒落なグレーのロングコートがよく似合っている。
鼻筋がスッと通った横顔、背には黒いベースケース。
表情こそよく見えないけど、これは間違いなくセレンだ。
向かい側には、長い髪をゆるいポニーテールにまとめた女性が立っている。
後ろ姿だけでも充分、綺麗だ。
彼女もチャコールグレーのノーカラーコートを羽織っていて、二人の服の色が似ているのと背丈のバランスがちょうどいいのも相まって凄くお似合いだ。
画像をスライドさせて次の写真を見ると、その場で女性が自分の腕をセレンの腕に絡めているところだった。
うっとりとしながらセレンを見つめる整った横顔には見覚えがある。あの人だ。
記事は、二人はこのあと夜の街へ消えて行ったという言葉で締めくくられていた。
セレンとあの人がそういう仲だとは分かっていたけど、実際に二人が一緒にいる場面を見てしまうと言葉が出なかった。
凄くショックだ。
さっきまでのふわふわとした幸せな気分が一気に吹き飛ぶ。
セレンが嫉妬をしているのかも、なんて勘違いをしそうになっていた自分が恥ずかしい。
やっぱりセレンが相手をするのは、彼女みたいにとびきり綺麗な人だ。
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