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わたしみたいな地味な女はお呼びでない。
そんなことは重々、分かっていたのに。
このままスマホを放り投げて、目の前のテーブルに突っ伏したい。
でもセレンがいる手前、口を噤むだけに留まった。
こんな記事は嘘であって欲しい。
最高にお似合いすぎる二人だけど、結婚なんかするはずがない。
してたまるか。
やり場のない気持ちを視線に乗せて顔を上げる。
ニュースに関係のないわたしがこんなに心をかき乱されているというのに、当の本人は涼しい顔で頬杖をつきながら何か考えごとをしているようだった。
「これって、わたしの家の前で待ち伏せしてた女の人だよね?」
「そうだよ」
「この女の人とはどうなったの?」
縋る思いでセレンに尋ねた。
もう終わったよ、とその一言が欲しくてセレンを見つめる視線に熱がこもる。
けれどセレンからは、いつもと変わらない静かな視線が返ってくるだけだった。
「これはおれのことだから。いろ巴には迷惑はかけないようにするよ」
トン、と突き放された気分になった。
口調は柔らかいものの、おまえには関係ないと言われてしまったようなものだ。
その通りかもしれないけど、こうやってセレンから距離を置く態度をとられたことがなかっただけにショックが大きい。
どう返事をすればいいのか戸惑っていると、セレンは何事もなかったように席を立った。
「おれ、仕事に行くわ。いろ巴は今日はどうすんの?」
「今日は休みなんだ。仕事頑張ってね」
「夜はいんの?」
「いるよ。セッションはやめとこうかな」
こんな気分で行くのは……と言いかけて押し黙る。
「じゃあ早く帰って来るよ」
「分かった。待ってるね」
セレンは、ふっと唇を綻ばせたあとわたしに背中を向けてリビングのドアへ歩き出した。
普通に話かけてくれたおかげで、とりあえず会話は繋げられたと思う。
でもわたしの心はこれ以上になく痛かった。
どうしてセレンは落ち着いていられるんだろう。
まるで他人事みたいだ。
もっと聞きたいことはたくさんあるのに、わたしには関係がないと言われた以上、この話題はセレンの前で口にはできない。
悲しい。
どうしたらいいのか分からないくらい、悲しい。
リビングのドアが閉まったあと、誰もいなくなった室内がじわりと滲んだ。
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