気付けなかった真実

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 こんなに買うつもりはなかったんですとも言えず、かごに入ったりんごの料金を支払って店を後にする。  商店街の通りから空を見上げると、さっきまで晴れていた空がどんよりとした暗い雲に覆われ始めていた。  今から一雨降りそうだ。  もう少し商店街をぶらぶらする予定だったけど、早めに家に帰ろう。  わたしは商店街の出口へ足早に向かった。  わたしにとって、セレンは誰よりも安心できる存在だった。  セレンも、わたしに対してそう思っているんだろうとどこかで思い込んでいたのかもしれない。  いつからわたしはそんな勘違いを起こしていたんだろう。  わたしが求めるようにセレンからも求めて欲しいなんて、わがままもいいところだ。  前を歩く人達を追い抜く度に、袋に入ったたくさんのりんごが足に当たってゆらゆらと揺れる。  手の中のナイロン袋の紐が伸びて痛かったから、反対側の手に持ち替えた。 「ちょっと重いな……」    まるで、セレンに対するわたしの気持ちの重みを物語っているみたいだ。  自分でも気が付かないうちに、セレンに甘えきっていた。  隣にいて優しくしてもらうのが当たり前になっていた。  その優しさに答えられていただろうか。  思い返せば、わたしはセレンのために何一つできていなかった。  セレンに何でも話して欲しいと望むなら、わたしが安心できる存在にならないといけない。  思いつくことは何でもやって、セレンとちゃんと向き合って。  そうすれば、少しずつ変わっていくかもしれない。    もうすぐで商店街の通りを抜ける。  気分が軽くなってきた。  これなら今日の夜、セレンとまた笑って顔を合わせられそうだ。大丈夫。  そう思った時だった。 「ちょっと待ちなさいよ。わたしの前を素通りするってどういうこと?」  商店街を出てすぐのところで、わたしは聞き覚えのある声にピタリと足を止めた。 「久しぶり……って言ってもいいわね」  ひとけのなくなった静かな通りに立ち並ぶ、大きな居酒屋の看板に隠れるようにしてその人は立っていた。  すっきりとしたモデル体型が映えるサラサラの綺麗な長い髪に、スポーティーな黒いキャップを目深に被っている。  ちらりと見える頬は白く輝いているし、ぽってりとした唇は形が良くてセクシーだ。  忘れもしない、この人は―――。  
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