気付けなかった真実

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「えっと……名前、何でしたっけ?」 「桝田彩世(ますだあやせ)!」 「あ、そうそう。桝田彩世さんだ」 「しぃぃぃぃ! 人の目をかいくぐって来てるんだから大きな声で名前を呼ばないでよね!」  人差し指を唇にあてて鬼のような形相で迫ってくる。  怖くて、思わず手に持っていたりんごでぶん殴りそうになった。  彼女に勢いよく押され足元がふらつくと、ナイロン袋がガシャガシャと大きな音を立てる。  お互いに顔を見合わせ、周りに人がいないかキョロキョロと確認したあと、雑居ビルの薄汚れた白い壁のそばで小さくなった。   「わ、わたしよりも彩世さんのほうが声が大きくないですか?」 「わたしはいいのよ!」  何がいいんだろうと思ったけど、そこはあえて突っ込まないでおく。 「今日はどうしたんですか? またいつもみたいに待ち伏せですか」 「わたしを暇人みたいな扱いしないでくれる? 今朝のニュース見たでしょ。わたし、彼と結婚するの」 「ニュースは見ましたよ、見ましたけど……セレンからは何も聞いてなくて」 「あら、聞いてないの?」 「聞いてません」 「わたしのことも聞いてない?」 「はい、何も……」 「そう、まあいいわ。じゃあ彼がロサンゼルスに行くって話は?」 「え、ロサンゼルス?」  彼女は腕を組み、バカにしたようにわたしを見下ろした。 「本当に何も聞いてないのね。彼、前からロサンゼルスに行きたがってたのよ。話は出てたのになかなか進まなくて。何でだと思う?」 「何でですか?」 「あなたがいるからよ。あなたがまともに働かないで、毎日遊んでるから彼が心配して日本から離れられないの」 「わたしが原因で? まさか。確かにセレンには迷惑をかけてるかもしれないですけど、それとこれとは関係ないでしょう」 「いつもべったりくっついて構ってもらってるじゃない。あなた、彼の足を引っ張ってる自覚はないの?」 「足を引っ張ってる……?」 「そうよ。そんなことも分からないなんて、やっぱりあなたにとって彼は都合がいいだけの存在なのね」 「違います!」 「何が違うの? 彼にもやりたいことや立場があるのに、何も考えないで自分のことばっかり。どうせ彼に優しくして貰って当然とでも思ってるんでしょ」 「それは……」 「本当は今すぐにでも行けるのよ、ロサンゼルスに。それを足止めしてるのはあなたなんだから」 「でも」
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