気付けなかった真実

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   細い、糸のような雨が身体に纏わりつく。  渦を描きながら押し寄せてくるごちゃ混ぜになった感情が、全身を流れる雨粒に絡みついて離れなかった。  ばかみたいにびしょ濡れだ。  でもなぜか、体温が奪われてどんどん身体が冷えていくのに雨を拭う気にはなれなかった。  気が付けばセレンの家の玄関を開けていた。  どうやってここまで帰って来たのか自分でもよく分からない。  濡れてボトボトになった靴下を脱いで、りんごの入ったナイロン袋やバッグをハンカチで軽く拭く。  荷物を玄関に置いて、湿った足で廊下を歩いていると、洗面所のドアが開き中からセレンが出てきた。  わたしを見るなり目を丸くさせている。 「うわ、やば」  セレンは入浴をすませたばかりなのか、白い薄手のカットソーとグレーのスウェットパンツ姿のまま、石鹸の匂いを漂わせながら濡れた髪をタオルで拭いている。  男の人なのに、どうしてこんなに色っぽいんだろう。  カットソーが縁取るセレンの引き締まった肩や、丸く開いた襟元から覗く首すじや鎖骨が今のわたしにとっては目に毒だ。  絶対に叶わないのに、このまま今すぐ抱きしめてくれないかな、なんて不埒な願望が脳裏を過ぎる。  わたしは、この酷い顔をなるべく見られないように下を向いて、半分だけ開いた洗面所のドアノブを軽く握った。 「雨凄かったよ。傘持っていけば良かった」  他に話すことはたくさんあった。  セレンに聞きたいこともたくさんあった。  けれど、それをごまかす言葉しか頭に浮かんで来ない。  とりあえずお風呂に入って考えを整理して、全部リセットしたかった。  それなのに、セレンは洗面所に入ろうとするわたしの前に立って強引に顔を覗き込もうとする。  わたしは手のひらを前に出して、小さな抵抗をして見せた。 「……何かあった?」 「何もないよ。お風呂に入りたいの、そこ通して」 「おれが拭いたらだめ?」 「だめに決まってるじゃん、何言ってんの」 「髪以外は拭く気ないよ」  セレンは自分の髪を拭いていたタオルをわたしの肩にそっとかけた。  優しい手つきでわたしの濡れた髪を拭き始める。  頬に当たるタオルの柔らかい肌触りと、爽やかなシャンプーの残り香に誘われて、かちこちに固まっていた心がゆらゆらと揺れだした。 「いろ巴、顔上げて」 「やだ」 「何で? 顔、見せて」
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