本当のきもち

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「顔が整いすぎてめっちゃかっこいいんだけど! 色気がやばくない?」 「分かる。漫画とかに出てきそうなくらい綺麗なのに、なんか落ち着いてて男っぽいよね。桝田彩世が羨ましい〜」 「あのニュースってほんとなのかな」 「ほんとなんじゃない? いいなぁ、どこで出会えたんだろう」  長い脚を組んだセレンがもう一度画面にちらりと映ると、後ろの女の子達から溜め息が漏れた。  少し前なら、「交差点で流れてたアレいつ撮ったの?」なんて気軽に聞けていたのに、もうそんなことも出来そうにない。  これまで当たり前だったことが、こうして一つずつ消えていく。  そしていずれは、わたし達の間には何もなくなってしまうんだろう。  逆立ちしても届かないくらい、遠い場所にセレンがいるのを改めて痛感する。  どうしたって元の場所には戻れない。  自分からセレンの家を出て行ったのに、すぐにでも帰りたい思いに駆られた。  ガン、と肩に何かがぶつかり、周りを見るとたくさんの人達が歩き出している。  いつの間にか信号は青に変わっていた。  わたしも早く歩き出さないといけないのに、足が重くてどうしても動かせない。  代わりに、鼻の奥がツンと痛む。  わたしも街頭の大きなディスプレイに映れるほど人気のあるピアニストになれていたら、セレンへの気持ちを諦めずにすんだんだろうか。  高校生の時にバンドデビューを果たして、プロとして活躍していたら今とは違う未来があったかもしれない。  でもいくらそう思っても、どうすることもできないところまで来てしまっている。  ここで初めて、自分の選んだ道にとてつもなく大きくて高い壁があるのに気が付いた。  こんなの、どうしたって乗り越えられない。  一人じゃ無理だ。  わたしにはセレンがいないとだめなのに。  子どもみたいに泣きじゃくりたい気持ちをぐっと堪えて、重い足を前に出す。  どうやって歩いているのか分からないくらい、わたしは心の中でたくさん泣いた。      
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