本当のきもち

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   だからこそ、この場は自分で決めなくちゃいけないのに、あの時に抱いた嬉しさが心の奥深くに残っていて、セレンに言われた通りに断ってしまいたい気持ちでいっぱいだった。  このままじゃ、一歩も前に進めないと分かっているのにどうすればいいのか分からない。  誘いに乗るべきか、乗らないべきか―――なかなか返事ができずに黙っているわたしを見兼ねたのか、大ヶ谷さんは語りかけるような口調で話し始めた。 『いろ巴ちゃんが来てくれたら、子ども達も喜ぶと思うよ。子どもの笑顔って本当に癒されるよね。僕、子どもにはずっとああやって楽しい気持ちで過ごして欲しいと思うんだよね』 「あ……」 『え?』 「いえ、何でもありません」  さっきまで一緒に遊んでいた幼稚園の子ども達の顔が、脳裏に鮮明に浮かぶ。  屈託のない笑顔で楽しそうに歌ったり踊ったりする様子は、幸せ以外の何ものでもなかった。  わたしの演奏が少しでも子ども達の役に立つのなら、すぐにでもとんでいきたいという思いが、ふつふつと込み上げてくる。  わたしが、わたしらしくいられるのは子ども達がいてくれるからだ。   ―――わたしらしい音楽がしたい。  望みはたったこれだけだ。  輝きを失いかけていた心に、小さな灯りがともる。 「わたしも子ども達には楽しい時間を過ごして欲しいと思っています。ぜひ、お話を聞かせていただけませんか?」 『良かった! じゃあ、今からいける?』 「どこに行ったらいいですか?」 『今から来て欲しいお店のURL送るね。そのお店で直接待ち合わせってことで』 「分かりました」  わたしは誰もいない空間に向かって勢いよく何度も頷いた。  セレンがいなくても大丈夫だ。  これからは、何でも一人で決めないといけないんだからしっかりしなくちゃ。  ちりちりとした痛みにも似た胸のざわつきを抑えて、わたしはブランコから立ち上がった。  
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