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ショルダーバッグから、スマホのバイブ音が鳴る。
バッグの奥に手を突っ込み裏返ったスマホをひっくり返すと、そこにははっきりと大きく〈セレン〉の文字が浮かんでいた。
どうして、このタイミングで。
押し込んだはずの罪悪感が、またじわじわと胸に広がっていく。
「出ないの?」
顔を上げると、大ヶ谷さんは着信画面からわたしのほうに視線を移したところだった。
わたしは無言で首を振った。
「どうして? けんかでもしたの?」
「いえ……そういうわけじゃないんですけど」
「そうなんだ。僕が聞けることじゃないのかもしれないけど、何かあったのかなと思って気になっちゃってさ。だって、あんなに仲が良かったから」
プツリと着信が途切れ、罪悪感と一緒にスマホをバッグの中に押し込む。
大ヶ谷さんは艶のある茶色の前髪を掻き上げると、バーカウンターにもたれかかるように両肘を置いた。
「セレンくんってさ、いろ巴ちゃんといる時だけいつもと全然違うよね」
「そうですか?」
「やっぱり気になるよね。セレンくんのことは」
「いえ、あの……」
「僕の前では正直に話せばいいよ。昔からセレンくんを知ってるけど、あんなに気の許した態度をとるところは他で見たことがなかったからさ。いろ巴ちゃんの存在って、セレンくんにとっては貴重だと思うんだよね」
どう答えていいのか分からず、バーカウンターに置いたおしぼりの端を指先でちょこっとつまみながら大ヶ谷さんの様子を伺う。
そんなわたしに気が付いていないのか、大ヶ谷さんはあっさりとした喋り方で話を続けた。
「まあでも、セレンくんってちょっと変わってるからいろ巴ちゃんが不安になるのも分かるよ」
「不安……」
「変わってるっていうか、感情を表に出さないというか。でもいろ巴ちゃんの前ではよく笑うし、楽しそうにしてるなと思うよ僕は。それに、セレンくんっていろ巴ちゃんと一緒にいる時は、女の子と全然喋らないのも特別感があると思わない?」
「え、わたしがいない時は違うんですか?」
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