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いつの間にか、お酒を飲むペースが上がっていたのかもしれない。
わたしはバーカウンターにだらしなく突っ伏して、目の前の空っぽになったカクテルグラスを眺めた。
ぼんやりと濁った視界の中で、一つしかないはずの細長いグラスが二つに重なる。
仕事の話なんかほとんどせずに、すすめられるがままお酒を飲んでみっともない姿をさらして、わたしは何をやっているんだろう。
ひどい失敗だ。情けない。
どうにかして起き上がれないかと身体に力を入れようとしたものの、どこもかしこもずっしりと重くて1ミリも動かせそうになかった。
「大丈夫?」
「大丈夫です……」
頭上から心配そうな大ヶ谷さんの声が聞こえて、咄嗟にそう答えた。
嘘だ。全然大丈夫じゃない。
これだけ身動きができないくらい酔っ払ったのは初めてだ。
大ヶ谷さんに余計な心配をかけたくなくて、おでこをぐりぐりと腕に押し付けてから無理やり視線を持ち上げて笑いかけてみる。
濁った視界に映る唇が、くし切りのレモンみたいに曲がったような気がしたけど、店内が暗くて大ヶ谷さんがどんな表情をしているのかまではよく見えなかった。
意識だけは、はっきりとしていることがちゃんと伝わっただろうか。
「お店、出よっか。お酒弱いんだね、イメージ通りだ。一人で立てそうにないね」
大ヶ谷さんの手が、わたしの背中をそろりと撫でる。
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