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わたしのやっていることは、他人から見たらくだらないことなのかもしれない。
いくらやっても無駄なことだと思われるのかもしれない。
けれど、わたしの音楽を聴きたいと思う人達の元へ駆けつけて、一人ひとりの心に寄り添うことで何かが変わればいいといつも思っていた。
「そんな辛気臭い顔しないでくれる? 言っとくけど何してもやめないからね。いつも一緒にいたあいつとも連絡取ってないんでしょ? こんな機会逃すわけにはいかないよ」
セレンはそんなわたしをばかにしなかった。
むしろ、ずっと応援してくれていた。
それなのに、誰よりもそばにいてくれたセレンの気持ちにまったく寄り添おうとしてこなかった。
セレンとまともに話そうとせず、勝手に家を飛び出して、電話だってずっと無視し続けて。
二人のためだと理由を付けて、セレンを傷付けることで自分が傷付かないように身を守っている。
わたしは、デビューする彼女を責め立てたあの頃から何も変わっていなかった。
何一つ、これっぽっちも変わっていなかった。
大ヶ谷さんの勢いに呑まれて、路地裏を出る。
昼間とは打って変わって人気のなくなった商店街を背に、道路の向こうで一際明るく光るホテルがやたらと眩しく見えた。
強い力で肩を抱かれたまま、目の奥からウッと熱いものが込み上げてくるのを黙って飲み込む。
いつも優しく守ってくれていたセレンを、大切にしなかったわたしがだめだった。
今日だって、大ヶ谷さんの所には行くなと引き止めてくれていたのに聞かなかったのがいけなかった。
もしもまた話せるのなら、その時はちゃんと謝ろう。
例え許してくれなくても、一生懸命謝ってわたしの気持ちを包み隠さず全部伝えよう。
「泣いてんの?」
「泣いてません、離してください!」
大ヶ谷さんがわたしの顔を覗き込む。
ありったけの力を込めて、近付いてきた顔を押し返そうとした時だった。
「いろ巴……?」
聞きたくて仕方がなかった声が耳に届いた気がして、わたしは勢いよく振り返った。
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