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セレンは地面に投げつけるように大ヶ谷さんから手を離した。
大ヶ谷さんの肩は大きく上下に揺れ、足元はバランスを取るのがやっとという様子で、よろよろと二、三歩後退った。
「人のこと、あんまナメんなよ」
「……るさいな」
大ヶ谷さんは俯きがちに襟元を整えた。
深く溜息をつき、思いきりセレンを睨み付ける。
セレンがどんな表情をしたのか後ろからは見えなかったけど、大ヶ谷さんは悔しそうに唇を噛んだあと背中を向けて走り去っていった。
「セレン、ごめんね。大丈夫? ケガはない?」
セレンの背後から顔を覗き込むようにして近付く。
飄々とした涼し気な表情を浮かべたセレンが、ちらりとわたしを見やった。
この場であったことが嘘みたいに落ち着いていて、思わず口元が緩む。
「良かった、大丈夫みたいだね」
「いろ巴は大丈夫?」
「大丈夫だよ。助けてくれてありがとう」
いつもの声だ。
緊張が解けた時だった。
セレンに手首をぎゅっと掴まれる。
それから真っすぐな視線を注がれて、わたしは身動き一つできなくなった。
「もう逃がさないよ、分かってる?」
「え……」
「分かんないなら今日はちゃんと話すよ。とりあえず帰ろ」
「帰るってどこに!?」
「おれんち」
「ちょっと待って、あのね、わたしもセレンに話があって……」
「最初に言ったの覚えてない? 後悔はさせないって。もう泣かせたくないんだよ、色んなことで。だからおれと一緒に帰ろ」
セレンはわたしの手首を強引に引っ張りながら、商店街に向かって歩き出した。
大ヶ谷さんの時とは違ってつい嬉しくなったわたしは、自分からセレンの後ろについていく。
けれど、そんなことを言われたら―――と、それ以上考えそうになったところでぶんぶんと頭を振った。
期待したらだめだ。
わたしには、それよりも伝えないといけないことがある。
セレンの背中を追いかけながら、これが最後のチャンスだと心の中で呟いた。
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