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とけあう夜
広くてガランとしたリビングは、ちっとも温かみがなくてなぜだろうとふと疑問を抱いた。
セレンの家を出て行ったのはたったの2日前なのに、何となく雰囲気が変わったように思う。
もう二度と来ることはないだろうと泣きながら出て行った分、久しぶりに感じているからだろうか。
猫脚ソファに腰掛けながら、隣りに座るセレンをこっそりと覗き見た。
セレンは、整った横顔を静かにこちらに向け、ソファに深く身を預けている。
相変わらずとらえ所のない涼しい表情を浮かべているけど、伏せられた長いまつ毛が憂いを帯びているように見えなくもない。
物思いに耽っている―――のかは分からないものの、気だるげに腕を組み、スラリとした脚を組み替えるセレンからは、いつにも増して色香が漂っている。
黒のニットセーターにグレーのテーパードパンツといった至ってシンプルな格好で、どうしてこんなにオトナな雰囲気が醸し出せるんだろう。
観察を兼ねてじっと見つめていると、わたしの視線が気になったのか、セレンは溜め息混じりに口を開いた。
「酔いは覚めた?」
「あ、えっと……うん」
マホガニーのローテーブルに置かれてある、冷たい水の入ったチェイサーグラスをちらりと見やった。
酔いならとっくの昔に覚めている。
セレンの家まで来る途中、車の中でずっと沈黙が続いていた時も、どうやってやり過ごそうかと考えていたくらいに頭はすっきりとしていた。
どうせなら、まだ酔っていたほうがもう少しリラックスできただろうけど。
「心配したよ」
セレンの落ち着いた低い声にドキリと鼓動が跳ねる。
隣に視線を戻すと、セレンはわたしを見つめながら弱々しく微笑んだ。
いつも余裕そうにしているところしか見たことがなかっただけに、思わず声が出そうになる。
突然、家を出て行って電話にも出ないで、こんなことになって。
わたしが勝手なことばかりしている間、セレンは本当に心配してくれていたんだろう。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
わたしは、お互いの距離を詰めるようにして座り直した。
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