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「ごめんね、セレン。いっぱい迷惑かけちゃった。黙って家を出て行ってごめんね」
「怒ってるんじゃないよ」
「分かってる、心配してくれてたんでしょ?」
「そうだよ、また一人で泣いてんのかなと思ってた。だっていろ巴って強がりなくせに泣き虫だし。おれじゃ、だめだった?」
セレンは軽く首を傾げた。
すぐ目の前でセレンに見つめられて恥ずかしくなったけど、今はそれよりも大切な話がある。
わたしは首を大きく横に振った。
「セレンは何も悪くないの。ねぇ、わたしの話をちょっとだけ聞いてくれる?」
「いいよ」
柔らかい声色に内心、ホッとしながらわたしは話を続けた。
「ここを出て行った日、実は彩世さんに会ったんだ。その時に、結婚のニュースは本当だって聞いてさ。凄くショックだったの。セレンが誰かのものになっちゃうんだって。わたし、知らない間にセレンは誰のものにもならないって思い込んでたんだと思う」
セレンは僅かに目を見開いた。
全部本当だよ、という意味を込めて頷き返す。
「セレンのことは友達だと思ってた。一番、大切な友達だって。だけど、それは違うって気が付いたの。ううん、気付かないふりをしてただけだった。セレンが結婚するのも、ロサンゼルスに行っちゃうのも嫌なの。寂しいんだよ、わたしから離れて行っちゃうのが。友達だから応援しなきゃいけないのに……ごめんね。このままじゃ何もできない。わたし、わたしね。本当はセレンが……もが」
いきなりセレンの大きな手で口元を覆われ、間抜けな声が漏れ出た。
眉を寄せてセレンを見つめ返す。
今から告白するところだったのに恥ずかしすぎだ。
「待って、ちょっと勘違いしてる」
「……勘違い?」
「おれ、結婚なんかしないよ」
「へ?」
「ロサンゼルスには行くよ。活動拠点を向こうに移すつもりだから。でも結婚はしない。するなんて一言も言ってないと思うけど」
「で、でも」
「それから、あいつとは何の関係もない。勝手に付きまとわれてただけ。写真を撮られた日も、仕事終わりに待ち伏せされてただけだよ。腕もすぐに振り払ったのに、そこは載ってなかった」
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