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「え、わたし!? わたしのこと?」
唇の先にある、つるりとした首すじが小さく震えている。
セレンが笑っていると分かって、わたしは「もう」と荒い息を吐いた。
「からかわないでよ、本気にしたじゃん」
「ほんとだよ」
セレンに背中を押され、優しく引き寄せられる。
目の前の首すじに鼻先も唇も沈んで、身体も硬い胸板にぴったりとくっついた。
突然、セレンの胸の中に閉じ込められて頭が混乱する。
汗で湿り始めた手をぎゅっと握り静かに深呼吸すると、甘すぎない爽やかなセレンの匂いが色濃く漂ってきて、益々自分を追い詰めることになった。
これはきっと夢だ。
しこたま飲んだお酒が見せている、わたしのいかがわしい妄想だ。
本物のわたしは、今もバーで眠りこけているに違いない。
視線をうろうろとさせる。
がっしりとした肩の向こうで、ダークブラウンのクラシックな振り子時計が11時を指しているのに気が付いた。
やたらと現実味のある時間だ。
けれど、こんなことが現実に起こるはずがない。
「ほ、ほんとなの? セレンがわたしを……?」
「そうだけど、そんなにびっくりすることかな」
「するよ! だって、セレンがわたしを好きになるわけなんかないもん。夢だ、これは絶対夢だ」
「夢じゃないよ」
「いや、夢! まぼろし!」
「何だそれ」
頭上から、いつも通りの穏やかな声が返ってくる。
「夢にしてはリアルだな……」
「そんなに言うなら、起こしてあげよっか」
背中にあった手が、肩をゆっくりと這っていく。
肩にかかる髪を指先で掬って、焦れったく撫でられている間に、もう一方の手がわたしの腰に回った。
ビクッと鼓動が跳ねる。
まさかこんなに際どいところを触られるなんて思ってもみなかったから、つい驚いてしまった。
「ここ触られるの、いや?」
耳に吐息がかかって、背筋がゾクゾクする。
嫌じゃないけど、どう返事をしていいのか分からなくてセレンの服をきゅっと掴んだ。
「ずっと欲しかった、いろ巴が」
背中や腰に回った腕に優しく抱きしめられ、心地のいい圧迫感が全身を包み込む。
セレンはわたしのこめかみに唇を寄せ、話を続けた。
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