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「おれのことを特別扱いしないで、おれ自身を見てくれたから。初めて会った時から惹かれてたよ。こんなやつ他にいないって」
「初めて会った時から……?」
「そう、あのライブハウスでいろ巴が話しかけてくれた時から。一緒にいればいるほど、楽しくて仕方がなかった。いろ巴には男として見られてないって分かってたけど、好きになるのをやめられなかった」
セレンの腕に力が入る。
「友達のままロサンゼルスに行くのも、中途半端に気持ちを伝えるのも嫌だった。だから、いろ巴が慌ててセッションに来た日、決めたんだ。一緒に住んで、この関係を変えるしかないって。困ってる状況を利用して、いろ巴には悪いと思ったけどな」
「そ、そんなこと考えてたの!? てっきり、わたしの話をごまかしてるんだと思ってた。女の子と遊ぶのは、やめたくないんだろうなって思ってたからさ」
「なんかまた勘違いしてるみたいだけど、おれ遊んでないよ」
「うそだ。だって、車に綺麗な女の人を乗せてるところ見たもん。それも一回だけじゃないよ」
目の前の胸を押し返して、セレンの顔を見上げる。
くっついていた身体が離れた代わりに、お互いの視線が意図せず絡み合った。
セレンの顔をこんなに近くでじっくりと見たことがなかったかもしれない。
華やかで中性的な顔立ちは、女のわたしが悔しくなるくらい完璧に整っている。
それに、そばで見るセレンの瞳は澄んでいて、子どもみたいに無垢な輝きを放って凄く綺麗だ。
こんな混じり気のない純粋な視線をまともに浴びて、正気でいられるはずがない。
だめだ、鼓動が強く早くなっていく。
「もうずっと誰とも何もないよ。おれ達が出会ってすぐの頃、いろ巴とは友達以上の関係は築けないと思ってたから、他を見ようとした時期はあったけど。でも無理だった。いろ巴にしか、こんなふうに思えない」
セレンはわたしの手を取ると、自らの頬へと導いた。
手の甲に穏やかな熱が触れる。
長いまつ毛が一度、ゆっくり動くと漆黒の瞳がわたしを捉えた。
「いろ巴じゃないとだめなんだ。おれがそばにいて欲しいと思うのは、今までもこれからもずっといろ巴だけだよ」
形のいい唇が、わたしの指先にそっとキスを落とす。
ふわふわとした初めての感触に動揺していると、セレンはわたしと自らの指を絡ませて愛おしそうに頬を擦り寄せた。
「好きだよ。一生、大切にする。だから、おれのものになってくれる?」
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