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唇に柔らかいものが触れる。
これがセレンの唇だと理解するのにそう時間はかからなかった。
ふわりと優しく重なって、離れていく。
―――わたし、セレンとキスしたんだ。
恥ずかしくて、でもそれ以上に嬉しくて自然と息が浅くなる。
キスしたばかりのわたしの唇は、初めての刺激でじんじんと熱い。
まさか、ファーストキスの相手がセレンになるなんて夢にも思わなかった。
頬が緩みそうになったけど、からかわれるのは嫌だからどうにか我慢して引き締める。
わたしだけが舞い上がって、セレンはどう思っているんだろう。
視界を覆う暗闇の向こうからは、物音一つ聞こえない。
気になって瞼を開けようとした途端、またすぐに呼吸を塞がれた。
さっきよりも唇が深く入り込んできて、思わず「ふ」と息が漏れる。
潤んだ熱が、波のように引いては押し返した。
しっとりとした温かい粘膜が繰り返し擦れ合うと、身体中がとろとろに溶けてしまいそうになる。
セレンの好きな人は他でもない、わたしだ―――そう実感させられているみたいで、心の奥深くがあっという間に満ち溢れていく。
満たされたその場所に、今まで何もなかったことさえ気が付かなかったのに。
好き。
大好き。
セレンへの想いが、もの凄い速さで全身を駆け巡った。
わたしがわたしで良かったなんて思えてしまうくらい、セレンが好きで仕方がない自分がいる。
誰かを傷つけたこともあった。
間違ったことをして後悔をした時もあった。
けれど、セレンがいればちゃんと歩んでいける。
つまずいてもそこから学んで、何度でも立ち上がれる。
セレンじゃないとだめだ。
わたしにはセレンしかいない。
深く繋がっていた唇が少しずつ離れていく。
追いかけるようにして瞼を開くと、滑らかな光を帯びた漆黒の瞳が、わたしをじっくりと見下ろしていた。
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