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セレンは、わたしをお姫様だっこで軽々と抱え上げると、2階に続く螺旋階段を登り始めた。
密かに憧れてはいたものの、本当にされてしまうとパニックを起こしそうになる。
セレンにしがみつきながら、すべての情報をシャットアウトしたつもりで硬く目を閉じる。
けれど困ったことに、すぐそばのうなじから爽やかな甘い香りがして、ますます緊張が高まった。
とてもじゃないけど、こんな状態じゃ最後まで持ちそうにない。
意識を違う方向に向けて、どうにか気持ちを落ち着かせようと頭を働かせる。
「明日の天気って、どうだったかな……」
「は?」
「何でもない」
自覚のないまま独り言を漏らしてしまい後悔した。
次は気まずい空気に耐えないといけない。
無言でベッドに降ろされ瞼を開けると、そこには温かな光を放つフロアライトに照らされた室内が広がっていた。
濃いグレーの壁紙に囲まれた、30畳くらいはありそうなベッドルームには、セレンにとって必要なものしか置かれていない。
ふかふかなクッションがたくさん置かれたキングサイズのベッドと、ナイトテーブルにはクラシカルな表紙がお洒落な洋書。
ベッドの近くには、見るからに高級そうなシンプルで背の高い花瓶にパンパスグラスのドライフラワーが飾られている。
「1階と雰囲気が違うね。ちょっとお洒落な感じ」
「寝る部屋だから、好きなように変えてる」
ベッドの真ん中に座るわたしの隣に、セレンは静かに腰を下ろした。
両手にどっと汗が滲む。
平常心なんて保っていられるかと、半分投げやりになりながらも会話が途切れないように無理やり話題を繋げる。
「べ、ベッドも大きいね」
「スプリングがいいから、ちょっと乱暴に扱っても音が鳴らないよ」
「乱暴って、寝るだけなのに?」
「いつもはそう」
「いつもは……。え、今から暴れるの?」
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