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「誰とも一緒になる気なんかなかった。いろ巴がおれを変えたんだよ。6年間も片思いするなんて、前のおれならありえない」
「待って。わたしも自分の気持ちに気付こうとしなかっただけで、最初からセレンのことが好きだったから、まったくの片思いってわけじゃ……」
起き上がろうと肘をついた瞬間、セレンがわたしに覆いかぶさった。
咄嗟に逃れようとしたけど、セレンに引き戻されてベッドに手首を縫い付けられる。
セレンは相変わらず涼しげな表情を浮かべていて、何を考えているのか分からない。
けれどわたしは、漆黒の瞳の奥で〈何か〉がちらついたのを見逃さなかった。
これまで何度か目にした、滑らかで深みのある輝きは、この場ですべてを露骨に曝け出そうとしている気がする。
焦がれるような視線、掴まれた手首、身動きの取れなくなったわたしの身体。
きっと、この輝きの正体は渇望だ。
セレンに食べられてしまう―――直感的にそう感じた時だった。
「いろ巴の初めては、おれが全部もらうよ。そうしないと気がすまない」
次にわたしを襲ったのは、噛みつくようなキスだった。
柔からな手つきで腰を撫でられ、閉じた唇に力が入らなくなったところで温かい舌が入ってくる。
抵抗する暇もないくらい強引なのに、口内を隅々まで愛撫されてたまらなく心地がいい。
多分、セレンはキスが上手いんだと思う。
ついさっきまで緊張していたのに、セレンから与えられる刺激でみるみるうちに身体の力が抜けていった。
「おれのものにするよ、いい?」
近くで見つめられて、軽いキスが落ちてくる。
ここまで来て最後に聞いてくるなんてずるいと思いながらも、わたしは強く頷いて見せた。
「わたしも、セレンのものになりたい」
悔しいけどさ、という言葉は深いキスに呑み込まれて言えなかった。
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