別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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新沼は夕実の前にしゃがみ込んで、夕実の耳元に口を寄せた。 夕実は抱かれるのかと胸を高鳴らせ新沼の言葉を待った。 「あんたに、自宅希望のオッサンのアパート行ってもらいたいんだけど。顔はどうでも良いんだって。マスクしてって。」 「え。」 夕実は自分が客を取るとは思っていなかったため、目を見開いて新沼を見つめた。 「フェラは希望してないから大丈夫だよ。逆にクンニしたいんだって。あー。オシッコ飲みたいってよ。口に放尿してあげて。」 夕実は朦朧とする意識で、新沼の言葉を拾いあげても考えようとはしなかった。ただひとつのフレーズに心臓が動きを早くする。 自宅希望の客……。 夕実は、9年前。不衛生で危険な客の元へ1人の未成年者を直接運んだことがあったのを思い出す。 どこの店も出禁になっている癖の悪い客だが、金払いが良かったから、世間知らずの性行為未経験の“ユキちゃん”を連れて行ったのだ。 「あと生で中出しOKにしといたから。」 デリヘル店は性交渉は行わないのが鉄則だと夕実も知っている。 それを訴えようと夕実は新沼の顔をじっと見て、9年前の記憶の断片に新沼がいることに気づいた。 「私、あなたに昔会ったことがある気がするのだけど。」 夕実の言葉に新沼は、笑いそうになる。 「そんなこと、今どうでもいいんだけど。夕実さん、俺の話聞いてた?もうすぐドライバー来るから。準備して。髪くらいとかして行きなよ? でさあ、ドライバーくん鬼連勤中なんだわ。可哀想だから駄々こねないですぐ車から降りてあげてね。彼、次も詰まってんのよー。」 新沼は夕実に黒いマスクと集金用のポーチを渡した。 「60分。シャワー無し。オプションと本番ありで3万円。ちゃんと仕事して来てよー。こっちは商売だから。」 「……。」
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