別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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「あのオバサン、酒飲みすぎじゃねー?」 「まりちゃん、声でかいって。」 待機中の夕実は、四六時中アルコールを口にしている。まともな思考回路ではこの場所にいられないからだ。 「ねー、アル中?」 “まりさん”が、新沼のスラックスを引っ張りながら夕実を指差した。 「まりさんは真似しないでね?」 「うち、まだ19なんだけど。」 夕実は話題にされてケラケラ笑われようがもう、どうでも良かった。意識も朦朧としているし、人の話など理解するために頭を働かせることなどに体力を使いたくないと考えていた。 あれからあの不潔な客から2回の指名が入り、最初の日よりもエスカレートした接客をさせられた。思い出さないためにもアルコールは欠かせないし、あの客といる地獄をあまり冷静に考えないようにするためにもアルコールで意識を朦朧とさせる必要があった。 「ゆみたん、1時間後指名入ってるからシャワー浴びて来て。ご新規だわ。」 「え?」 「客だからシャワー行けって。聞こえないの?」 仕方なくフラフラ立ち上がって、風呂場に向かう夕実だが、足元がおぼつかない。 「オバサン、1人で大丈夫?シャワーで溺れんじゃない?」 夕実は信じられないという顔をした。こんな自分を“まりさん”が両手で支えている。 「つか、ガリガリじゃね?何食ってんの?髪パサパサだし。」 「……。触らないで。」 「え?」 「触らないで、私に。」 夕実は汚れ切っている自分の体を他人の手に触れさせたくなかった。 “まりさん”の親切を受けたら汚いものに触らせているような気分になって申し訳なくなる。 「私に、近寄らないで。」 それに、自分より頭の悪い女に少しでも同情されるのは夕実のプライドが許さなかった。
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