別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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夕実が連れてこられたのは、山奥にある廃屋に近い見た目の古ぼけたラブホテルだった。 7階建てのその建物は外壁にヒビが入り蔦が張り巡っている。 「じゃあ、終わったら連絡してください。」 夕実を運んできたドライバーは35歳の男性。ドライバーながら、系列店という店舗形態のない3営業所の店長もしていて携帯電話を3台持ち歩いている。 アルコールの缶を持った夕実を車から下ろした途端電話が鳴り、応対しながらスマホから新沼にLINEを送り女の子の手配をする。 こんなことを43連勤で続けている。自由な時間などなく道の駅やスーパー銭湯でシャワーを浴び、その場所の駐車場で仮眠しながら勤務している。ブラック中のブラックだ。 「……哀れね。能のない人間の生き方だわ。」 夕実は自分を送って来た車が発進するのを見送って休憩1時間2500円と書かれた看板の横を通り過ぎ、ラブホテルの自動ドアを潜った。 中に入れば切れかけの蛍光灯が不規則に点滅していて、ピンクと紫の間接照明が部屋の案内板を照らしている。その横には葉っぱの枯れたゴムの樹が佇んでいる。 7階建てにも関わらず指定されていたのは1階の出口付近の部屋だった。案内板の写真を一目すれば、“SM設備・浴室マット有り・ヌレヌレローション使い放題”と書いてある。 夕実は、ぼんやりそれを眺めて、体にアルコールを流し込んだ。 ーーー別に、どうでもいいわ。 ヨロヨロとサンダルを引き摺りながら歩く。 全くの赤の他人の肉棒を扱くために歩く通路。 新規の客だと言われてこんな山奥にまで来てしまった。しかし夕実には、それさえもどうでも良かった。 ーーーどうせ酷い地獄を味わってるし。もうわたしなんか死んでしまえばいい。 そう思い、指定された部屋のドアをノックした。 部屋の扉が開いて杉田夕実が中に入る。と…
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