別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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「杉田さん。今、あなたがあなたの自宅に帰るのは危険です。」 「…え。」 「我々、警察があなたを保護します。」 警察官の野尻のその言葉に夕実は野尻の脚を強く掴んで爪を食い込ませた。 「待って、直哉には会えないの?直哉は私に会いたいのよね?」 警察官の野尻は、脚に食い込んだ爪に顔を顰めるが振り払いはしなかった。 「杉田夕実さん、まずはあなたの身の安全を確保しなくてはなりません。お節介な探偵があなたのためにマンスリーマンションを契約してくれました。仮住まいですが、まずはそちらへ行きましょう。自宅からはだいぶ離れますが…」 「……直哉に会いたいの。お願いよ。直哉に会わせて。ねえ。」 聞く耳を全く持っていない杉田夕実。警察官の野尻はその顔をじっくり見つめた。 ーーー聞いていた通りだ。前歯が2本ない。それに酒臭い。顔面に打撲痕があるし、直近で殴打された傷もある。 「杉田さん。旦那さんに会いたいというご要望は検討します。」 「……会わせてよ。私の直哉なのよ。直哉に会えないなら、死んでやるから!」 杉田夕実が野尻の脚にますます爪を食い込ませていく。 警察官の野尻は、杉田夕実に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。 「杉田さん。まずはここを出ましょうか。」
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