別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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「離婚をしない?」 岩屋弁護士が唐沢直哉の発言を聞き、俺に疑問の目を向けた。 「俺、考えたんです。一瞬で。」 唐沢直哉の考えたこと。俺もなるほどとは思った。だが、そんなに世の中甘くないんじゃないかと。 「離婚したら、多分成り立たない。」 唐沢直哉の言葉を聞いて岩屋弁護士がどんな反応をするだろうか。 唐沢直哉の思惑を知っている俺は、岩屋弁護士に対し申し訳ない気持ちが湧いてくる。 「アンゼンローンは、夕実に暴力を振るいました。これを訴えて慰謝料2000万ってふっかけたいんです。だから、離婚すると成り立たない。こういうのは赤の他人より配偶者が訴えた方がいいですよね?」 唐沢直哉が碌でもないことは初めからわかっていた。 岩屋弁護士は、顎に手を当て考えている。 「それは、実際に唐沢さ…直くんが現場を見たということでしょうか。」 「いえ、夕実の部屋にそういう痕跡があったんです。」 「……痕跡。」 「夕実は今、行方不明です。警察に捜索願を出しました。」 ……実際に捜索願を手配したのは俺だけどな。書類も俺が代筆したし。 「それはなかなか証拠になりにくい……。」 だよね。俺も思ったー。 岩屋弁護士が俺に視線を送ってくるのと同時に唐沢直哉も俺を見て来た。 「警察には通報して現場に残っていた血痕と……。」 岩屋弁護士に俺のスマホを見せた。杉田夕実の自宅を撮影した写真だ。 寝室の血のついたベッドマット。床に落ちていた歯。 「この白い塊は……。」 「歯だと思うんだよね。警察で調べてる。」 スマホの画面を伏せてテーブルに置いた。 「杉田夕実さんは、歯が折れるほど殴打された……。悲惨ですね。相手方は何をそこまで激昂するようなことがあったんでしょうか……。」
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