別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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唐沢直哉を連れて来たのは、電話の相手と待ち合わせをした場所。 海に面して物流倉庫が並ぶ。その並びにある現場事務所の前に車を停めた。 「澤木さん?」 唐沢直哉が後部座席から声を振るわせる。 「本当に大丈夫なんですか。悪い冗談じゃないですよね?」 ルームミラーに映る唐沢直哉の顔が青ざめている。 「お相手は、もうすぐ着くみたいですね。」 助手席にいる岩屋弁護士に俺のスマホを預けていた。 「相手って、……なんですか?」 唐沢直哉が完全に俺と岩屋弁護士を疑っている。失礼にも程があるだろ。 「直くん。なんか疑ってる?」 「だって、こんな場所に連れてこられたら……。」 「人身売買的な?直くんのこと、ヤクザに売りに来たみたい?」 「……冗談ですよね?」 「……うーん?」 俺が答えを濁せば岩屋弁護士が助手席で笑みをこぼす。その笑い、逆に怖い。 「岩ちゃん、笑うのやめてあげて。直くん、泣いちゃうよ。怖いよ、その笑い。」 「澤ちゃんの方こそ、不安を煽る濁し方してるじゃないですか。」 岩屋弁護士が暗い海に目をやった。 「……少しだけ窓を開けましょうか。締め切っていると監禁になってしまいますから。」 優しい顔して、怖い雰囲気作るの上手過ぎませんか? 「……唐沢さん。」 「……は、い。」 「下手な小細工なしに離婚をした方があなた方夫婦のために良いと私は考えます。」 唐沢直哉がゴクリと唾を飲んだ。 「そもそも、婚姻について。あなた自身は杉田夕実さんと家庭を築きたいと考え、自らの意思で進んで行ったものだったのでしょうか。」 後部座席を見てみれば、唐沢直哉は俯いている。比嘉結菜に言葉巧みに操られ持っていた婚姻届を市役所に提出してしまっただけのこと。 「あなたは杉田夕実さんに対し一生の責任を持つことなど考えていなかったのでしょう?」 「……夕実の人生の責任なんか取りません。」 どんだけクズだよ。唐沢直哉。
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