別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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野尻が比嘉結菜にiPadを見せる。 唐沢直哉もそれを覗き込み、ゾッとした顔をした。 「杉田夕実さんです。 酷い暴行を受け、先ほど治療のため入院されました。また、性病…クラミジア、淋病、梅毒に感染しています。そして、軽度ですがアルコール依存症、そして、双極性障害と診断されました。」 比嘉結菜は、写真を見せられ表情を曇らせるばかりだ。野尻はさらに医師の診断書を比嘉結菜に見せた。 「比嘉結菜さん。いえ、数原幸乃さん。杉田夕実さんにこのような暴行を加えろと誰かに命令しましたか?」 目を泳がせながらも、比嘉結菜のその視線は野尻に移る。 これは、深池祐樹と新沼敏博が篠木由治に命じられて動いた事件だ。比嘉結菜の知るところではない。それがわかっていての野尻の質問だった。 「ゆいちゃん、違うよね?」 違うと言って欲しいのは、唐沢直哉だけではない。 岩屋弁護士、警察官の野尻、それに俺も。比嘉結菜が誰にも命令などしていないことを知っている。 比嘉結菜の泳ぐ目に涙が滲んでいく。 杉田夕実のこんな姿を、ここまでの無惨な姿を望んではいなかったということなのだろう。 「比嘉さん?」 岩屋弁護士は、比嘉結菜を気遣って呼びかける。比嘉結菜は、ひとつ息をついた。 「……私が、お願いしました。」 「比嘉さん。あなたが犯行を教唆した、つまり、犯行をそそのかしたということで、正犯…暴行を加えた人物と同じ刑事罰を受けることになりますよ?」 警察官の野尻が、iPadを比嘉結菜に近づける。比嘉結菜は顔を逸らそうとはしなかった。 「野尻、あんま近づけないであげて。こんな写真見たらまともな判断できないでしょ?」 「探偵さん。私はまともですよ。」 比嘉結菜は、俺に向かって微笑んだ。 「だって、私は夕実さんを確かに憎んでいて、復讐するって心に決めて。パパに“夕実さんを私と同じ目に合わせて”って言ったんです。 私、悪いことをしたなんて思ってません。」 比嘉結菜は野尻が持っているiPadの写真をスクロールし、杉田夕実の腫れ上がった目元や、歯の抜けた口元などの画像をじっくり眺め、深く息をついた。 「これで私の復讐も終わりました。どうぞ捕まえてください。夕実さんへの謝罪はありません。 まあ、…夕実さんには“自業自得ですよ。”と、お伝えください。」
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