別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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比嘉結菜が力無く両手を野尻の前に出せば、唐沢直哉がその手を握った。 「ゆいちゃん。」 そのまま、比嘉結菜を抱き寄せる。 「俺には、ゆいちゃんがとは思えない。教唆ってそういうことだよね。」 唐沢直哉が教唆の意味を知っていたことに野尻も岩屋弁護士も少し驚いた顔をした。 「ゆいちゃん、本当のことちゃんと言って?ゆいちゃんがこのまま警察に行っちゃうのは俺は違うと思うよ。」 「何言ってるの。直くん、私は平気でそういうことができる人なのよ。夕実さんにはどんな情けもかけたく無いの。 夕実さんが警察に保護なんかされて心からチッて思っているの。どうせなら死ねばよかったのにって。そう思ってるんだから。」 2人が目を合わせるそれは、恋人同士のように見えた。比嘉結菜は、唐沢直哉に向けて諦めたように薄く笑った。 「だとしても、ゆいちゃんが復讐したいって言ったとしても」 「あのね、直くん。」 比嘉結菜は唐沢直哉から体を離して、その顔をまっすぐに見ている。その目には涙が溜まっている。 「んー…。……いい加減、もうウザいかな。 私が全部悪いってことにして。それで、もう私に関わらない選択をしてくれない? 私は直くんを騙して利用したの。パパに直くんの借用書は無かったことにしてもらうからね。 私は直くんにとって最悪な浮気相手だったのよ。私と直くんは体の相性が良かっただけなの。それがどこかですごくお互いが、いいもののように見えたように…錯覚しただけなのよ。 大丈夫よ。私のことなんかすぐ忘れられるわ。」 でも、比嘉結菜はずるいので。その腕で唐沢直哉を引き寄せて再び唇を重ねた。まるで生涯忘れてほしく無いと言っているような口付けだった。 「さようなら、直くん。」 綺麗に話を終わらせようとする比嘉結菜と、別れを選びたく無い唐沢直哉。 だが、2人は知らなかった。 この時すでに杉田夕実に対する暴行・誘拐の容疑でアンゼンローンの深池祐樹、売春強要の容疑で新沼敏博に逮捕状が出ていて警察が動いていたということを。
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