別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

132/142
前へ
/143ページ
次へ
杉田夕実が入院して3週間が経った。 唐沢直哉は警察官の野尻に連れられその病室を訪ねた。 唐沢直哉の腕は治り、指も動くようになっていた。杉田夕実の前で離婚届を書こうと、決心してここに来た。 杉田夕実は、目の前に現れた唐沢直哉に驚きを隠さず、その目から大粒の涙を流し立ち上がるなり 「…ぁああァアっ!直哉!!直哉ァアッ!!!」 耳を劈く(つんざく)叫び声を放った。唐沢直哉に駆け寄ろうとする杉田夕実を看護師が取り押さえ座らせた。 杉田夕実の精神状態を考慮し心療内科の看護師がそばについているのだ。 他の入院患者のことを考え、談話室での面会にしたことは正解だった。 「直哉、…直哉、…私の直哉。ふふふ。直哉ぁ。ふふふ。ねー。やっと、会いに来てくれたの。私の直哉ぁ。」 看護師に宥められた杉田夕実が、唐沢直哉を見ながら譫言のように笑みをこぼしながらふわふわと言葉をこぼしている。 ーーー別人だ。 唐沢直哉はそう思いながら、杉田夕実のその顔を悍ましい(おぞましい)ものを見る顔でチラチラと見た。 こんな状態の杉田夕実の目の前で離婚届なんて書ける訳がない。 しかし、離婚は決めたことだ。直哉は後に引かないと決心してここに来た。 「…夕実、久しぶり。」
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加