別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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杉田夕実は、わなわなと体を震わせ拳を握り締める。 直哉が自分の浮気を謝ってくれたら、それを許してあげよう。 これからは自分の夫である直哉のために健康に戻ろう、そう努力しようと決めていた夕実には直哉の態度も言動も許せないのだ。 唐沢直哉から自分の浮気を謝ろうという姿勢が微塵も感じられないことが何より許せない。 「……私が悪いって言いたいの?私だけが全部悪いの?誰が浮気した?お前だろクズ!!! あのクソ女はお前なんか性処理の道具にしか思ってなかっただろうが!! どうせ、捨てられたんだろボケが!! ザマァ見ろ!!クソガキ!!」 杉田夕実はギャーギャーと騒ぎ立て看護師に押さえつけられている。 「おいコラ!!このクズが!!能無し!!! アタシが誰のせいでこんなとこにいると思ってんだ!!お前だろうが!クズ!!!」 押さえ込む看護師の力に抗って杉田夕実が唐沢直哉に飛びつこうとする。 だが唐沢直哉は、当事者ではないように落ち着いていて 「…はは。よく言うよ。夕実が俺と付き合いながら乃村常務の愛人も続けてるくせに。 乃村常務さー、絶対に夕実と別れるなとか、俺の愛人を泣かせるなとか脅してきたんだよ。 なにそれ?夕実、乃村常務に何か言ったの? 俺の浮気ばっかり悪いように言うけど、自分は?笑わせんなよ、夕実ってどんだけ自分勝手なんだろうな?」 淡々と話しつつ談話室のテーブルに離婚届を広げ、杉田夕実の目に入るように、記入欄に必要事項を書き殴っていく。 当てつけのようにも見える行動で、杉田夕実にも看護師にも唐沢直哉の行動は信じがたいものだった。 「まあ、別にどうでもいいや。俺、もう二度と夕実と会いたくない。 そうだった。勝手に籍入れちゃってごめんね。それだけは、謝っとくわ。一応。」 その声はただただ冷たかった。 唐沢直哉はボールペンを置いて判をつく。かと思えば、温度のない目を杉田夕実に向けボールペンを差し出した。 「書いて。今すぐに。帰りに出して行くから。」 杉田夕実は直哉の行動を理解できないでいる。 「…看護師さん、夕実が書けないみたいです。代筆してくれます?別にこんなの筆跡鑑定するわけでもないし。俺の字じゃなければなんでもいいんですよ。 夕実の判子、持ってきたから押すね。」
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