別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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唐沢直哉の提出した離婚届は受理された。 杉田夕実は実感のない結婚をし、実感のないまま唐沢直哉と離婚し別れたのだ。 杉田夕実は病室で、直哉が置いていった指輪をいじりながらぼんやり過ごす日々が続いた。 「直哉は、アタシのもの……直哉は、また必ず戻ってくる。…だって、直哉はアタシを愛しているもの……。」 夕実はふと窓を覗き込む。 「…直哉。」 似たような服装や年齢の男性を見ると、唐沢直哉だと思ってしまう。が、しばらく見て直哉ではないと諦める。 しかし、この時は。 「直哉…。直哉よ。迎えに来てくれた。」 杉田夕実は半狂乱で病室を出て廊下を走り、看護師の止めるのを振り切って外に出た。 チャコールグレーの上下のスーツ、黒いシャツ、短髪の男性を目掛けて走り出した。 「直哉、直哉、直哉!!行かないで!!待って!行かないで!!待ってー!!」 あまりの大声に振り返った男。立ち止まり夕実を見るなり、にっこりと笑った。 「おー、何、何ぃー?あー。なんやー。おねーちゃん。んー?久しぶりやないのー?んー?元気しとったー?」 「……。」 男は直哉とは似ても似つかない。夕実は呼び止めたこの男が誰なのかもわからないのだが。 「なんやー、そないに痩せてー。今までどこにいたん?」 夕実は物腰の柔らかいその男に背を抱かれ。久しぶりに感じる人の体温につい身を委ねてしまう。 ただ、この男はもちろん杉田夕実のことなど知らないのだ。知っているふりをしている。それの方が都合が良いと判断したのだ。 「なー、おねーちゃん、なんか病気持っとるのー?んー。…まー、ええか。」 男の声や体温に、直哉の全てを思い出し瞳を滲ませ夕実は求めるように男を見つめた。 「おー、なんやー、泣いとん?えらいかわいそうになー。誰にいけずされたん?んー?もう、忘れー。泣かんでも大丈夫よー。」 男は夕実の体を撫で回し、夕実の頭に唇をつけ、夕実の尻に指先を滑らせ服の上から性器を弄った。 夕実はそれに対し、拒絶を覚えることはなく。むしろ、性的に求められているようで女としての悦びを感じずにはいられなかった。 「なー、気持ちよーしたるわー。」 「……本当に?」 男の指は、夕実の熱が溜まる芯を擦り上げていく。 「今、どう?」 「…うん。きもちい。ねえ、もっと、して?」 「なんやー。かわええなー、おねえちゃん。なー、えーもんがあるんやー。俺と一緒に行こー。」 杉田夕実は、その男に連れられるまま側に停車されていた車に乗り込み、入院していた病院から姿を消した。
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