別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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写真を握りしめる手に力が入った。 「……だって。いつも愛してるって。…そう…直哉は…。直哉は……。」 「助けてあげたいの?碌でもない男なのに。 同情する価値ないと思わない? 見かけのいい作り物の女にハマって、ギャンブルでつけ込まれてさ。」 とはいえ、杉田夕実こそ碌なもんじゃないが。 「妊娠してるの、私。直哉に、この子のパパになって欲しいの。」 溢れる涙が、芝居か否か。 俺にそんなもの見せても何も解決しないのだが。 借金地獄の男と結婚して返済地獄の家庭を築き上げれば、比嘉結菜の思う壺。 お腹のこどもも必然的に地獄行きだが、そんなことは杉田夕実の頭にはない。 「唐沢直哉は今、ここにいない。それが答えだと思わない?」 「比嘉結菜に騙されてるだけよ。直哉は、真面目な好青年なんだから。年下で可愛くて素直で……。」 昔の虚像に縋りつく杉田夕実。 お腹に手を当てため息をつく。 「浮気なんてなかったことにして仕舞えば、きっと今まで通りの元の私たちに戻れるわ。 だって私、直哉が好きだもの。別れたいなんて言ったけど、直哉を誰にも渡したくなんて……。」 確かに3年前は、直哉は杉田夕実に夢中だった。 26歳の夕実は婚活に本気で取り組み、身だしなみには大きく気を遣ってわずかながらも今より男の気を引く女だった。 性風俗嬢を斡旋していただけあって、それなりに男を寄り付かせる術は持っている。 直哉を手に入れ、油断したのか。1年足らずでその美貌は失われた。 今は、浮気をする直哉に疲れ果てている。肌も髪も爪も艶を失っている。 理想的な自分を見失い、自分の元から去ろうとする唐沢直哉を繋ぎ止めるためになりふり構わず財産もばら撒いている。 愛も恋も儚い。 相手に注いだ愛情が注いだ分だけ虚しいものへと変わっていく。もはや執着。執着を通り越せば憎しみに変わっていく。 憎しみは強い執念であり醜い感情だ。 それに縛られている時間ほど無駄なものはない。 夕実が握りしめている写真をまじまじと見る。 身を寄せ合いながら比嘉結菜宅に向かう2人の写真だ。 夕実は諦めたように、ふっと笑った。 繋ぎ止めていた糸を自分で切った瞬間だった。
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