別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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それから1ヶ月。 働く場所も時間も自由な唐沢直哉が、探偵(つまり、俺)の事務所を訪ねて来た。 「夕実が未払いの分の報酬です。」 唐沢直哉は俺に茶封筒を渡して来た。中を見れば30万円入っていて。 「何このお金?」 競艇にでも手を出してるんじゃないだろうかと思い、俺は疑いの目で唐沢直哉を睨みつけた。 「俺の貯金から。」 「え、貯金あったの?」 「ありますよ。当たり前じゃないですか。俺、成人男性ですよ。」 良かった、自己破産させなくて。自己破産してたら貯金差し押さえられてたわ。セーフ。 「え、いくら貯金してんの?」 「そうですね、中古のハイゼットカーゴ買えるくらいなら……。」 「…そう、へえ。」 …少な…。100万円ちょい。自慢にならんよ。てか、金額例える車が軽貨物かい。渋いなあ。 待てよ。借金してたのは、やっぱり比嘉結菜のためだったってことか?わざと口車に乗って嵌ってやった可能性もある。 コイツ、アホなのに策士なのか?怖い。 「澤木さん?」 「え?」 「まさか、受け取らないとか言わないですよね?」 「うん。受け取れない……かなあ。」 唐沢直哉に封筒を返そうと試みてみるが。 「仕事は仕事ですよ。」 「いや、なんていうか……モヤモヤぁって、感じだし。」 「でも、澤木さんには結構時間を使ってもらいましたし。」 唐沢直哉は、どこか他人事のように呟いた。 「……じゃあ、夕実の病院代にしてください。」 「うん、それなら。…は?杉田夕実の治療費、俺が払いに行くのおかしくね?」 「…俺も行けません。他人だし。」 杉田夕実の籍は唐沢直哉の籍から抜けている。他人だ。 「じゃあ、野尻に頼むか。生活安全課だから。」 というか、他人だと思っているならなぜ報酬を届けに来たのか……。 「直くんは、杉田夕実のことやっぱ気になってんの?」 元妻の安否を心配するくらいの男であって欲しいが。 「………え。あー、…。」 その期待を簡単に裏切ってくるのが唐沢直哉。この調子だと、どうでもいいと思ってるんだろう。 「…どこにいても、きっと夕実は夕実です。きっと。図々しくそれなりに生きてますよ。」 唐沢直哉は杉田夕実が、心底嫌いなんだと思い知らされた。 「お金は…俺がお世話になった分も一緒に受け取ってください。ありがとうございました。」 なるほど。 「お前はちゃんと治せよ。病気ほっとくと碌なことないから。」 「……はい。」
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