別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

141/142
前へ
/143ページ
次へ
唐沢直哉は、人を思いやる気持ちが欠けている。ずっとそう思っていた。 しかし自分本位なその態度は、杉田夕実へだけ向けられていたものだったとわかったのだ。 杉田夕実に性欲を満たす道具にされたのだから、仕方ないといえば仕方がなかったのかもしれない。 「澤木さん、ありがとうございました。空港で助けてくれて……。」 「えー、いつの話?」 唐沢直哉のスマホが上着のポケットで震えている。スマホを手に取って画面を見た唐沢直哉が、ふっと口角を上げて優しい顔で笑ったのが見えた。 「出なよ、電話。」 「…あ、大丈夫です。」 「なんでよ?」 「あの、ゆいちゃんなんで。」 「あ、そう。だったら、尚更出なよ。」 「わかってくれるんで大丈夫です。」 惚気られてるようで腹が立って仕方がない。 「貸せよ、電話。」 「え?」 「代わりに出てやるよ。」 「ダメです。俺のゆいちゃんなんで。」 「もう、帰れよ。」 比嘉結菜と唐沢直哉は、2年ちょっとの両片思いが実り、今ちゃんとお互い向き合い付き合っている。 世界一、どうでもいい話だ。くだらない。 「澤木さん。」 「え。」 「本当にお世話になりました。」 俺は煮え切らないけれど、別れたい女と別れて前に進めた唐沢直哉は、晴々とした顔をしていた。 「もう世話しないから、そっちで勝手にやってよ。」 「ありがとうございました。さようなら。」 唐沢直哉と比嘉結菜には、俺が関わることはもうないだろう。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加