別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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直哉は吐き気を覚えた。 ここにくる前、比嘉結菜から夕実の本性を知らされていた。 夕実が20歳で起業した性風俗斡旋業会社には15歳以下の少女が多く登録されていたのだ。 ロリコン思考の男どもから金を巻き上げるのは意図も容易いものだった。 『私、15歳で妊娠も中絶もしたの。世の中の人間なんてね、1人も信じてない。 夕実さんはね、表向きとても優しかったの。初めてのお客さんはお金持ちだった。気持ち悪いけど、お店の料金のほかにお小遣いもくれてね。 でも、夕実さんにバレちゃって、ほとんど私はすっからかん。 その日、報酬にもらったのは1万円とカップヌードルだった。 こどもだから騙せるって思ったんだろうね。夕実さんの思い通りに私は騙された。』 比嘉結菜は直哉の瞳を潤んだ瞳で覗き込んだ。 『私は、望まない妊娠をして学校にも行けなくなったし、親の借金は結局返せなくて自己破産。 私も私で、性風俗の底の底まで落ちて深池組…ヤクザに拾われたの。』 杉田夕実は、知らず知らずに、深池組のシマを荒らしていた。比嘉結菜の客の中には深池組の篠木由治に義理がある人物が紛れ込んでいたのだ。 『だからね、直くん。あたしと直くんが出会ったのは全部、夕実さんへの復讐のため。 直くんと夕実さんが結婚すれば、夕実さんは必ず不幸になる。 直くんは夕実さんと結婚しないと借金が返済できない。夕実さんの財産目当てで1年だけ結婚してみたら?』 ベッドの上、比嘉結菜が唐沢直哉の上に跨って、何も被せていない雄の先端を自分のヒダに当てた。 『私、夕実さんが不幸になっていく様子だけ見られたらもう十分だから。 だって、直くんがお金借りてるとこ闇金だから、今だって元金よりもどんどん利子が膨らんでるよ。 夕実さんを連帯保証人にして、直くんは行方をくらませればいい。 その時は、私の紐にしてあげる。 だから、せめて1年我慢して。 私は、執着するような愚かな恋愛はしないけど、なんでも言うことを聞くペットなら飼ってあげてもいいかなって。 直くんは幸い私を満足させてくれてるし。』 マレーシア料理店に向かう前のこの日の最後の1回。行為の最中に比嘉結菜からかけられた言葉が何度も何度も蘇る。 「……我慢できれば、借金もなくなる。」 人は臭いものにフタをする。そのフタが誰かによって開けられる可能性があるなんて微塵も感じずに。 直哉はふと考える。 俺の浮気と、夕実の過去はどっちが罪が重いのだろうと。 そして、はたと思う。 俺はどっちを残して、どっちを手放したいんだろうかと。 比嘉結菜への直哉の好意は、夕実にとっては三度目の直哉の浮気。直哉にとっては叶わぬ愚かな地続きの本命の恋。 比嘉結菜の復讐を完結させれば杉田夕実に自分が復讐されるかもしれない。 「だいたい、妊娠て怖いんだけど。」 震えてくる体。直哉は先程まで胃に落とし込んでいたナシゴレンを便器にぶちまけた。
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