別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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直哉は深く息を吐いた。 「ねえ?」 「え?」 「結構美味しいわよね、マレーシア料理。」 「そうだね。」 「新婚旅行はマレーシアでどうかしら。」 「……そうだね。」 ことあるごとにお腹に手を置く夕実に、直哉は再び吐き気を覚えた。 「お腹大きくなる前に行きましょうね。」 「…………そうだね。」 左指のリングを自分だけのもののように見つめる夕実。 直哉は知っている。夕実の黒い過去を。 夕実は知っている。直哉の黒い秘密を。 互いの黒い部分に比べたら、比嘉結菜という存在がやけにポップな存在に思えてくる。 夕実にとっては比嘉結菜は直哉のただの浮気相手。 直哉にとっては比嘉結菜は最高に体の合う癒し。 比嘉結菜については一旦、保留案件にしても構わない存在とさえ思えてしまう。 目の前の婚姻届。 夕実は直哉にボールペンを差し出した。 「ここで書いてしまって。」 「ここで?」 「直哉、うちには今夜来ないでしょ?」 「……。」 直哉は夕実の家に行く気などさらさらない。用事もないのだ。 ーーー俺は何を間違えた? 直哉はこめかみから流れてくる汗をおしぼりに染み込ませた。
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