別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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直哉のスマホが胸ポケットで震え出す。 着信だ。知らない番号だった。 「出ていいのよ。」 夕実は料理を口に運んだ。 「誰なのかわからないから後でいいよ。もしかしたら詐欺電話かもしれないし。」 「私が出ようか?」  夕実の意味のわからない問いかけに、直哉は首を傾げながら鳴り止まない電話の電源を切った。 「いいの?そんなことして。」 夕実が不適な笑みを浮かべたのを直哉は見て見ぬ振りをした。 「私、婚約者としてあなたが心配。父も母も直哉を気にいるとは思うけど」 いよいよ、我慢できない吐き気に直哉が再び席を立つ。 「ちょっと、お手洗い。」 オープンキッチンの影になっているレストルームに向かう直哉の背中を目で追いながら、夕実は指輪の箱を手に取った。 「よくもこんなもの持ってこれたものね。」 古いデザインのジュエリーケースをまじまじと眺める。はめられた指輪を外して内側を覗けば刻印があった。 “to Yumi” 直哉の母親の名も“ユミ”だということは、付き合う前から知っている。
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