別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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直哉は精路通過障害のうち先天性精管欠損症で男性不妊である。 精子が作れないわけでも、勃起や射精に障害があるわけでもない…生まれつき精管が形成されていないのだ。 夕実は知らないが、直哉には婚姻歴がある。 21歳の頃、一度結婚していて当時の配偶者からこどものいない家庭は考えられないが、不妊治療に時間はかけられないとお互いの合意の上離婚した。 結婚生活は1年半。 離婚後の直哉は、こどもを見るたびに胸が締め付けられた。だが、そのうち割り切って考えるようになった。 こどもを欲しいと思っていたのは前の妻や社会的なものの見方からの影響で自分の考えではなかった。 以来こどもを見ても感情が無になって、かわいいと思うことは無くなった。 だから直哉は結婚なんかしたくない。 結婚なんか現実じゃない。妊活のために義務的にセックスをしていた1年半、役に立たないと捨てられ終わった結婚生活。 夕実のお腹にいるのは間違いなく乃村の子どもだ。 「……バカにしすぎだ。俺のこと。」 治ってきた吐き気。 洗面台でもう一度口を濯いで顔を洗った。 「……結婚して地獄に落としてやる。クソが。」
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