別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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夕実の元に戻った直哉は何ごともなかったように、夕実から受け取ったボールペンで婚姻届を記入していった。 「夢みたい。直哉と夫婦になれるなんて。」 夕実はこれで表向き、幸せな女となれる。 結婚さえして仕舞えば、比嘉結菜という邪魔者がいようと世間からは自分は幸せな女と認識される。 結婚して仕舞えば比嘉結菜はただの不倫相手に過ぎない。むしろ、比嘉結菜が不倫相手になってくれることで夕実は悲劇のヒロインにもなれる。 目障りな女も利用できればこちらのものだ。 これは、乃村の本妻から学んだことだ。 乃村の本妻は弁護士で、夕実、直哉、乃村が勤めている藤倉ホールディングスの顧問弁護士でもある。 乃村の本妻はいつでも夕実を訴えることができるが、それをしないのは夫の地位と名誉のためである。 本妻からすれば夕実ごときはいつでも駆除できる小蠅程度のもの。 目障りではあるが、小蠅で夫の気が治っているのであれば、カエルに餌を与えているのと同じだ。餌は餌らしく大人しく喰われていろという考えだ。 目障りだろうが、こちらから触れに行かなければ害はないのだ。 見て見ぬ振りと知らぬ振りは時に自分の心の安寧となる。 「……夕実。」 「何?直哉。」 「幸せになろう。」 記入欄を埋めた直哉が夕実に優しく微笑んだ。
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