別れたい女たち 〜恋は愚か愛は憎しみと紙一重〜

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杉田夕実が探偵(つまり俺)に報酬を渡すため事務所を訪れたのは、それから3日後のこと。 「また、追加でお願いしたいんですけど。」 「追加?」 夕実の左手の薬指に煤けた指輪が見えた。 「直哉と連絡が取れなくなったの。」 「なんで?」 「……わからない。3日前に外で食事をして、用事を思い出したって言ってそれっきり。 会社にも来てないの…。電話も電源が切れてる。 家にも行ってみたけどこんな張り紙が貼ってあって……。」 杉田夕実が俺にスマホを見せてきた。 写真に写っている貼り紙には“泥棒”“金返せ”など取り立てが来たとわかる言葉が並んでいる。 「ヤクザに捕まったんでしょ。今頃、腎臓のひとつ、目玉のひとつ、くり抜かれてんじゃない?」 ぼんやりとそう言えば睨みつけられた。 「直哉がこんなことになるなら、うちに軟禁すれば良かった……。」 軟、禁…?えー。 「別れたいって思ったけど、浮気もされたけど、もう愛想も尽きていたけど。 地獄に堕ちればいいとも思ってはいたけど本当にいなくなるなんて……。 ねえ、澤木さん。探してよ!直哉を探してよ!」 探すまでもないことは、俺がいちばんよくわかっていて。しかし、それを口にしたら夕実が激情するのも目に見えている。 「あなた、探偵でしょ?報酬は弾むから!!」 調査費用は嵩む一方、夕実の直哉への執着心も強まる一方だ。 まあ俺は別に、この人の生活の心配なんかしなくていいんだけどね。 「はーい。わっかりまーしたー……。」
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